運動場のライン引きなどでよく使われている消石灰(水酸化カルシウム)だが、子どもの目に入る事故が相次いでいることが日本眼科医会の調査で分かった。これを受けて、文部科学省も、より安全性の高い炭酸カルシウムに切り替えるように求める通知を出した。ただ、ライン引き以外にも、消石灰は農業でも幅広く使われており、これまで以上に注意が必要になりそうだ。
報告事例は「氷山の一角」
消石灰をめぐって文科省が注意喚起を行った
調査は、日本眼科医会の学校保健部が07年9月に行ったもので、10月18日、調査結果を踏まえて同会は文部科学省に対して、全国の学校で消石灰使用を禁止するよう働きかけることなどを要望。これを受けて文科省は11月2日、各都道府県の教育委員会などに通知を出した。
消石灰は強アルカリ性で、目に入ると角膜や結膜が損傷し、視力に影響する障害が残ることもある。
調査は、同会の全国47支部の学校保健担当者がアンケートに答える形で行われた。47支部のうち、「学校で消石灰を使用している」と答えたのが29支部(61.7%)で、そのうち10支部が「ほとんどの学校で使用している」と回答。
ここ1~2年での消石灰による事故の有無については18支部(38.3%)が「事故があった」と回答し、51の事例が報告されている。この件数については、同会では
「これは学校保健担当者が見聞しただけの件数で、実際には数倍の事故が発生していると考えられている」
と分析、「氷山の一角」との見方を示している。実際、18支部(38.3%)が「(ここ1~2年に限らず、過去に)消石灰が原因で視力の障害が残った症例の経験がある」と回答しており、98の事例が報告されている。
事例の中には、深刻なものも見られる。例えば山形県の10歳男児のケース。03年8月に、小学校で運動会の練習中、隣にいた友人が手元にあった消石灰の粉を男児の顔めがけて振りかけた。学校側はすぐに保健室に連れて行き、眼科を受診させたが、角膜の一部に濁りが残る結果となった。
農業では両眼失明という最悪の結果も発生
もっとも、消石灰は学校現場だけで使用されている訳ではなく、農作業で、土壌を消毒するなどにも広く利用されている。そんな場面での事故も報告されている。91年7月、49歳の女性が農作業中、両眼に農業用石灰(消石灰)が入った。右目の角膜はアルカリで腐食溶解したため、05年に2度にわたって角膜移植を行うも、結局は両眼とも失明するという最悪の結果となった。
この消石灰、畑仕事以外の農業分野にも活用されている。例えば、07年1月に鳥インフルエンザが発生した宮崎県では、養鶏場の消毒に「活躍」。インフルエンザ「鎮圧」後も、県では今後の対策にも生かしてもらおうと、10月末から11月下旬にかけて、養鶏農家約960戸に対して、4000万円を投じて消石灰5万袋(1袋20キロ)を配布した。消石灰の有用性が高く評価されているあらわれとも言えそうだ。
県の畜産課に、消石灰の危険性について聞いてみると、
「生石灰(酸化カルシウム)は、水を加えると発熱して特に危ないので、その旨注意喚起しています。消石灰については、粘膜に付着すると危険ですが、農家の皆さんも、そのことはすでにご存じだと思いますし、適宜注意喚起していきます」
との答えが返ってきた。「農家は、普段通り注意してほしい」とのスタンスのようだ。