少子化や国の補助金カットの影響で私立大学の「資金力」が弱まってきているなかで、「学校債」が注目されている。2007年9月30日に本格的な施行がはじまった金融商品取引法で、学校債は「みなし有価証券」とされ、不特定多数の投資家から資金を調達できるかわりに、投資家が1億円以上を引き受ける場合などは一般の企業並みの情報開示が必要になった。資金調達の手法が多様化するので歓迎かと思ったら、「かえって厄介なだけ」(私学関係者)らしい。
私学が発行する学校債も「有価証券」に位置づけ
宮崎県の日章学園は、ウェブサイトで学校債を募集している
文部科学省によると現在、学校債を発行している私立大学・高校は「把握していないが、そんなにない」(私学行政課)という。
学校債には国立大学法人が発行する学校債と、私学のそれと2通りあり、前者はこれまで国立大学法人法と証券取引法(現・金商法)で有価証券としての発行が法的に担保されていたが、私学が発行する学校債は「有価証券」にあたらず、位置づけがあいまいだった。金融商品取引法で、そこを明確にした。
文科省は学校債について、「金融商品取引法によって有価証券と見なされたことで、投資家保護を重視する必要が出てきた。不特定多数の投資家でも買える債券になったということを学校側も意識してほしい」と話している。
学校債はこれまで、2001年の文部科学省の通達で一般の個人を募集対象とすることが可能になっていたが、現実には債券の購入者の多くが在校生の保護者や卒業生、学校関係者と「身内」ばかりで、それもあってか、財務情報等の開示義務もなかった。なかには学校側が無利子で資金を調達していたケースもあり、債券といっても実際は単なる「借用書」にすぎなかったといえる。
07年6月からホームページで学校債を募集している宮崎県の日章学園は05年以降たびたび、学校債を発行している。今回は10億円を目標に、在学生や卒業生は年1.5%、外部応募者には年1%、期間1年の条件で募集をかけた。「目標額に達するまで随時募集していて、いまは6割ほど」(財務部)という。借入金のうち、学校債の割合は10%弱とのことで、9月の金商法施行前には文科省から事前調査があり、「とくに問題なし」とお墨付きをもらった。外部応募者がわずかで、しかも1億円も拠出した投資家などいなかった。このケースが例外ではなく、学校債に大金を投じる投資家はこれまでなかった。
情報開示が厳しくなり、そのコストが大変
一般の個人投資家でも購入できるようになったのだから、販売する銀行や証券会社も期待をかけているかというと、どうもそうではないようだ。
債券アナリストの分析はこうだ。「一般的に私大はまだ余裕がありますから、外部から資金を調達することもないです。いざとなれば、私学振興事業団の融資で銀行よりも安い金利で調達できますし、急速に(学校債の)マーケットができあがるとは思えません」と、学校債には否定的だ。
日本私立学校振興・共済事業団もこうした意見にうなずく。設備投資の意欲は減退ぎみで、いまアグレッシブな経営者は少ない。「学校債の利用は本当にわずかです。そもそも経営状況が悪くなりつつあるなかで、資金不足を学校債で埋めていく経営では不安です。1回1回きちんと返済すれば問題ないですが、ローリングする可能性もあって心配です」(私学振興事業団)と、いい顔をしない。
ある私学関係者は、「学校債が使われることはない」という。情報開示が一般の企業並みに厳しくなり、そのコスト負担に耐えられないことが、その理由。学校の会計基準は企業と違うので、それにあわせた書面を作成するだけでひと苦労。学校側は、学校債が自分たちの想像以上に使いづらくなったことで、結局はこれまで通り在校生の保護者や卒業生といった「身内」に頭を下げればいいと感じているようだ。