学校に理不尽な要求を次々に突きつける。そんな親の姿が、放射能を撒き散らすゴジラを連想させるのか、「モンスターペアレント」と呼ばれるようになった。理解はぜんぜんできないが、なんとか対応しなければならない。自治体の教育委員会の中には、苦肉の策として、苦情を類型化してマニュアルにするケースも出てきた。
「利益追求型」「愉快犯型」など10類型化した教委
「娘に学芸会でピアノを弾かせてほしい」「いじめた子を転校させろ!」
保護者モラルの低下で、こんな苦情に悩む学校が増えてきた。いつから増え始めたのか定かではないが、07年夏ごろからマスコミでは「モンスターペアレント」と呼ぶようになってきている。
モンスターだから、社会常識や理性はなかなか通用しない。が、そんな親を持つ子どもを辞めさせられない以上、対応するしかない。そこで、自治体各教委が取り組み始めたのが、苦情を類型化して処方箋を書いたマニュアルだ。
京都府教委は11月15日、苦情マニュアルの「信頼ある学校を創る」を作成。その中で、親の苦情を「現実正当型」「理解歪曲型」「過剰要求型」「解決困難型」の4つに類型化した。そのうちモンスターペアレントに当たるというのが「解決困難型」だ。
また、群馬県安中市教委では7月、トラブルの未然防止のため、親の苦情を「依存型」「溺愛型」など10類型で想定した「苦情対応マニュアル」を作った。もとは、東京・立川市立立川第一中学校の嶋崎政男校長が個人的に研究発表した「指導と評価2005 年4月号」で提唱された考え方だ。
嶋崎校長にJ-CASTニュースが取材すると、10類型のうち、「利益追求型」、「愉快犯型」、「理解不能型」が、今で言うモンスターペアレントに当たるのではないかとした。この類型化は、岩手県教委のマニュアルなどでもすでに採用されている。
では、各類型はどのようなモンスターペアレントの例が当たり、各々どのように対応するのか。京都府教委の類型は一つしかないため、嶋崎校長の3類型について聞いてみた。
深夜12時を超えて担任に電話が1か月
まず「利益追求型」。嶋崎校長によると、金品を要求する恐喝タイプだという。
「普通なら働いている時間に、学校に苦情を言いに来たお父さんがいました。そして、休業補償を暗にほのめかして、学校に金品を要求するようなことがあったのです」
こうした場合、嶋崎校長は、言動を記録し、警察と相談することが必要だとしている。
次の「愉快犯型」も、困りものらしい。嶋崎校長が聞いた話では、「教師の言葉で傷ついた」と学校に怒鳴り込んできた親がいた。この親は、実際に教師の言葉を確かめたわけではないのに、学校を困らしてやろうと教師糾弾のビラを撒いたという。
「ご自身に欲求不満があるとき、事実に即していないクレームで言いがかりをつけて欲求を晴らそうというタイプです。こうした場合、教師一人で対応すれば精神的に参ってしまうので、校長ら管理職に相談することが必要でしょう」
最後に、「理解不能型」は、親自身が心に問題を抱えており、何を言ってくるか分からないタイプだ。嶋崎校長は、
「例えば、わが子かわいいという溺愛型がエスカレートしたものがあります。運動会でリレーの選手にしてほしいと、深夜12時を超えて担任に電話をかけてきた親がいました。それも、1か月も親の訴えが続きました」
と明かす。この場合、スクールカウンセラーなど専門家に相談するのが一番だという。
ただ、親の苦情には、教師の指導力不足や学校の無責任体質が背景にあることも多い。モンスターペアレントとはいえ、やはり双方の地道な話し合いによる解決が必要だ。
大阪市教委が08年3月までにまとめる保護者対応の手引書の中間報告には、次のような興味深い対応策があった。運動会の組体操で一番上になれなかった小学生の親からのクレームに対し、次のように対応したというのだ。
「運動能力が上だからこそ、ほかの児童を支える側にたってほしい」
と。親も、子どもが練習に取り組む姿を見て、次第に態度を和らげたという。
前出の嶋崎校長もこう話す。
「親子の気持ちを汲む努力が対応の基本なので、この話はいい例ですね。子どもかわいさに言い出した親も、これなら、もしかしたら納得するかもしれません。教師も、親子の気持ちを汲んでいれば、自然にこうした言葉が出てくるはずです」