商品相場が長いあいだ高騰を続けている。原油価格が急速に上がったのが広く知られているが、それに限らない。金、白金、銀、ニッケル・・・といった鉱物は軒並み上がっているし、大豆、小麦、コーヒーといった農作物も上がっている。こんなに数多くの銘柄(商品)の価格がいっせいにしかも急ピッチで上昇するという事態はどんな市場でもそうあることではない。
「原材料の値段が高騰して大変だ。家計が心配だ」。これが一般的な反応だろう。それはそれで一面の真実。しかしそこで思考がストップしてしまってはいけない。なぜなら値段が上がっているということは、儲けている人がいるということなのだから。
昔のことを少し思い起こしてみよう。オイルショックの時に原油は1バレルで3ドル程度だった。20ドルを超えたのが1999年。それがいまや100ドル目前だ。もし、あなたが当時から日本株や国債ではなく、原油に投資していたとしたらどれだけ儲かっていたことか。
わたしが商品相場のことをこうして書いているのは、最近の値上がりがあったためだけではない。金融商品としての商品投資にはさまざまな利点があるのだ。
(1)インフレヘッジとなる
(2)一物一価の原則が世界中で通用するグローバルな投資の典型。
(3)株価と商品価格は理論的に逆相関の動きをするとされる。(原材料の価格が上がる(下がる)と企業収益を下向かせる(上向かせる)ため。)そのため株式ポートフォリオのヘッジとして有効である。
日本のファンドマネジャーは商品投資アレルギー
欧米ではこのところ、機関投資家が利回りのよい商品市場に対する投資をどんどん増やしてきた。そのおかげで年金や保険の利回りが向上し、回りまわって一般庶民の懐具合にも貢献している。年金資金などは20年、30年の長期運用なので、わずかな数パーセント高い利回りでもプールしている資金は何倍にも殖えるのだ。
しかし、日本の機関投資家は商品市場への投資を本格的に行ってこなかった。わたしは数年前から年金基金のファンドマネジャーなどに商品への投資を増やすべきと何度も説得してみたが「われわれは所詮サラリーマン。人と違うことをして失敗したら説明がつかない」などと言われる始末だった。
日本で商品投資に対する一種のアレルギーがあることは理解できる。わが国の商品投資市場が長年、不透明な状況にあったからだ。個人投資家が悪徳ブローカーに乗せられたり大口取引者に翻弄されたりして泣かされる例が散見されたが、近年は法制面でもまた商品面でも環境がかなりよくなってきている。まして世界の市場で勝負する機関投資家が恐れるものは何もない。そもそも「新しいものには手を出さない」というような投資戦略をとるような投資家が、よいパフォーマンスを上げられるだろうか。
まあ、ここまで商品相場が上がってしまうと、さすがにこれ以上の価格上昇を見込む投資をしろ、とは言いづらいのも事実。ただ、少なくともポートフォリオの分散、インフレヘッジ、グローバル投資といった観点から、商品投資をいま一度真剣に考えるべき時期にきていることは確かだと思う。
++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。