日本の調査捕鯨船団が環境保護団体に「体当たり攻撃」される姿は、お茶の間のお馴染みになった。ところが、07年11月18日の船団出港とともに始動した南極海での調査捕鯨では、豪州の軍隊にまで翻弄されるかもしれないというのだ。環境保護団体の体当たり攻撃も激しさを増しており、船団関係者は頭を痛めている。
水産庁「まっとうな国ならありえない」
調査捕鯨のため出港した日新丸
調査捕鯨関係者にとって衝撃的なニュースが、2007年11月15日に飛び込んできた。同日付毎日新聞の記事によると、豪州の最大野党である労働党が、日本の調査捕鯨監視のため偵察機派遣など軍隊を出動させたいとの考えを示したというのだ。野党といっても、24日の総選挙で、11年ぶりに政権を執る可能性が高くなっている。まもなく軍出動は現実のものになるかもしれないのだ。
毎日によると、同党では5月、軍艦を送って捕鯨船に対する臨検や拿捕を行う計画まで明らかにした。現ハワード内閣の閣僚からは「海賊行為のようなもの」との批判が出ているが、労働党は強硬な姿勢を崩していない。
「まっとうな国であれば、普通はありえないんじゃないですか。我々の調査捕鯨は、国際捕鯨取締条約に基づく100%合法的な活動です。臨検や拿捕となれば、国際的な問題になると思います。政権を執れば、政府として責任ある行動を取られると考えたいですが…」
水産庁遠洋課の担当者は、現時点で政府見解は一切述べられないとしながらも、苦渋の様子でこう語った。
同課によると、臨検や拿捕ができるのは明らかに違法操業の場合だけ。それも、捕鯨船の母国政府に通報してOKが出て初めて実力行使できるという。
欧米では、日本の調査捕鯨への批判は多いが、特に、豪州の風当たりが強い。寿司屋を訪れた日本人男性が銛で串刺しになる過激なビール会社のCMが作られたり、ユーチューブに捕鯨の残酷さを訴える動画がいくつも投稿されたりしている。
11月12日には、英テレグラフ紙が、豪州人は「ミガル」と呼ばれる世界でただ一頭の全身が真っ白いザトウクジラが捕獲されるのを恐れていると報じた。ホエールウォッチングなどの船に慣れているミガルが、捕鯨船に近づくのではないかというのだ。人々は、ミガルが豪州東海岸に沿って移動してくるのを毎年熱い思いで心待ちにしているという。
これに対し、遠洋課では、「調査のためザトウクジラのランダムサンプリングは必要だが、50頭だけなので遭遇する確率は低い。近寄って来ることもありえない話で、感情的に騒いでいるだけではないか」と話している。
グリーンピースとの戦いも激化
反捕鯨の動きは、環境保護団体でも盛り上がっている。水産庁遠洋課によると、07年冬は、グリーンピース(本部・オランダ)より過激とされる米国の環境保護団体の船による体当たり攻撃があった。「以前は接触する程度でしたが、ここ数年、過激化しています」と同課の担当者は言う。
この環境保護団体の2船は07年2月9日、調査母船「日新丸」へ酪酸とみられる薬品を投げ込み、乗組員2人が目や顔に軽いやけどを負った。スクリューを狙ってロープや漁網を投下したりもしたという。同12日には、別の船に激しく体当たりして船体の一部を損傷させた。「南極はとても厳しい環境で、東京湾とはわけが違う。当たり所が悪ければ、大きな事件になっていた」と同課の担当者は話す。
06年1月は、グリーンピースの船も体当たりしてきたという。同課では、米国の環境保護団体は、グリーンピースの創始者が始めた団体で、互いに連携して調査を妨害しているとしている。
これに対し、グリーンピース・ジャパンの広報担当者は、「米国の環境保護団体は船をぶつけていたが、こちらは実力行使をしたことはなく、平和的な手段で訴えています。06年のケースは、日新丸の方からぶつけてきたんです」と反論する。双方の目的を巡っても、「グリーンピースは、妨害というよりパフォーマンス。ビデオ、写真で金を稼いでいる」(水産庁)、「日新丸は、調査捕鯨というより商業捕鯨。採ったら箱詰めにして、日本で販売している」(グリーンピース)と、批判合戦をしている。
日本の調査捕鯨船団は11月18日に山口・下関を出港したが、グリーンピースのエスペランサ号は宮崎沖で待機して、同日から日新丸などを追跡している。さて、もし豪州で労働党政権ができれば、どうなるのか。
「私たちは、政党や企業とは独立したスタンス。オーストラリア政府と協力することはありません」とグリーンピース・ジャパン。とすると、今後、豪州政府が軍隊を出動させることがあれば、日本の調査捕鯨関係者にとっては悩ましい三つ巴の戦いになりそうだ。