地上デジタル放送への完全移行(2011年7月24日)まであと3年半余り。しかし、山間部などで地デジの難視世帯が最大60万世帯あるほか、都市部でもビル難視が数百万世帯も出る恐れがある。肝心の地デジ対応受信機の普及も全国で3割という体たらく。11年の完全移行は困難という見方が強まっている。
都市部の難視670万世帯、支援策なし
山間部では地デジの難視世帯が多い
総務省がまとめた都道府県別の地デジの進行度合いを示した整備計画によると、地デジが届かない世帯が全国で30万から最大60万世帯ある。山間部や離島を抱える北海道、栃木県、鹿児島県がそれぞれ数千世帯と多かった。総務省は、これら地域には衛星を使って視聴できるよう支援する。
この整備計画には、都市部のビルやマンションなどの陰や反射で地デジが見られなくなる世帯は入っていない。こうした都市部のビル難視世帯は全国で670万世帯にのぼるとみられているが、こっちは山間部などと違って国の支援はない。
これまでのアナログ放送でもビルやマンションなどの建物の影響によって難視世帯が出ていた。こうした難視世帯を発生させるビルやマンションでは屋上に受信施設を設けて対応してきたが、地デジ移行に伴いこの施設の地デジ化が迫られている。全国マンション管理組合連合会は「国が勝手に電波をデジタルに変えるのが原因」として国に費用負担を申し入れた。これに対して、総務省は「当事者間で解決してほしい」と言うだけで支援に乗り出す動きはない。
「ひとまず延期」説がささやかれる
地デジが見られる対応テレビの普及も芳しくない。6月末時点で2243万台と日本の全世帯の約3割しか普及していない。今後、月に100万台という現在の増加ペースのまま推移するとしても、2011年の完全移行時点では7~8千万台。目標の1億台には届かない。
問題はまだある。現在の地デジ対応テレビは十数万円とまだ高額。従来のテレビで地デジが見られる外付けチューナーは2万円前後する。総務省は「チューナーは5千円以下にしたい」というが、メーカーは「対応テレビが売れなくなる」と製造には後ろ向き。もっとも、このチューナーで見ると映像も音声もアナログのままだ。
高齢者や低所得者ら「デジタル弱者」の対策も進んでいない。政府部内には「低所得者には地デジ対応テレビ購入の補助をすべき」という声もあるが、財源などのメドはたっていない。日本より早く地上波のデジタル化を決めていた米国や韓国では受信機普及が政府の計画通りにいかないため開始を延期した。
日本では「地デジは国策なので100%普及に向けて全力投球するしかない。延期については誰も触れたがらない」(在京キー局幹部)というように延期はタブーになっている。得をするのは携帯電話事業者だけ。視聴者に負担を強いる地デジの完全移行はひとまず延期、対応テレビが普及した時点で完全移行するのが現実的ではないか。