ゲーム機市場での任天堂の「一人勝ち」が続いている。家庭用ゲーム機「Wii(ウィー)」と携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」の販売台数が他社を大きく引き離し、株式の時価総額は一時、10兆円の大台を突破した。独走する任天堂に死角はないのか。
ゲームに縁遠かった女性や高齢者を引き寄せる
「DS」人気の任天堂に死角はないのか
「来年は株式の時価総額でトヨタ自動車を追い抜くのではないか」。任天堂が2007年10月末に開いたマスコミ・投資家向け経営方針説明会では、こんな質問まで飛び出した。
世界販売台数で首位をうかがうトヨタだが、若者の車離れも指摘され、決して盤石ではない。若者が車より好んで買っているとされるゲーム機。そこで圧勝している任天堂がトヨタを逆転してもおかしくない――。そんな連想が働いた質問だが、任天堂の勢いからして、あながち荒唐無稽とも言い切れない。
任天堂の株式時価総額は、日本企業ではトヨタ、三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ3位。トヨタの半分以下と、まだ差があるが、任天堂の株価の先行きには強気の見方が多い。任天堂はゲーム機の従来の概念を覆す新たな顧客層を開拓した。そのビジネスモデルに対する市場の評価は高い。
ゲーム機はこれまで「複雑な操作が必要で一部のマニア向け」と思われてきた。だが、任天堂のゲーム機は簡単な操作に加え、「ペット育成」や「脳力」といった新機軸を打ち出し、ゲームには縁遠かった女性や高齢者らを引き寄せ、市場の裾野を一気に拡大した。
「Wii」は世界中でヒットし、9月末までの累計販売台数は1317万台。ソニー「プレイステーション3」を大きく上回り、北米で強いマイクロソフト「Xbox360」も抜いて、世界首位に立ったと報じられた。「もはやライバルはゲーム機メーカーではなく、iPodで世界的ブームを巻き起こした米アップルだ」という指摘すら出ている。
他社値下げにも「影響ない」
ただ、「ゲーム業界は流行の変化も激しく、任天堂も消費者に飽きられるのではないか」「ゲーム機市場は飽和状態で任天堂も限界に突き当たる」との懸念もささやかれる。
高成長を維持するため、任天堂が年末商戦の主力ソフトとして12月から発売するのが「Wiiフィット」。利用者がボードに乗ってヨガなどの運動をすると、運動の正確度が判定され、肥満度も記録できる。健康志向の高まりを意識した商品で、任天堂の岩田聡社長は「ゲーム初心者から熟練者まで誰もが楽しめる」と「独走固め」に自信を示す。
また、ソニーやマイクロソフトは年末商戦に向けて相次いでゲーム機の値下げに踏み切り、巻き返しを図っている。だが、岩田社長は、前述の説明会で日米欧の販売状況のグラフを掲げ、「他社が値下げしても、独自の市場を形成しているWiiやDSの販売ペースには大きな影響は出ていない」と力説した。年末商戦はこれからが本番だが、業界では「任天堂の強さは変わらないだろう」との観測がもっぱらだ。