ジャーナリストの田原総一朗氏が訪朝し、北朝鮮政府高官から「拉致被害者の中には、生きている人もいる」と知らされていた。田原氏が早稲田大学での講演でこう明らかにした。ただ、北朝鮮が従来「死亡している」と主張している8人については立場を変えておらず、「8人以外に生存者がいる」ということのようだ。だが、専門家からは、「(『拉致日本人はもういない』という)金正日総書記の発言と矛盾する」との指摘もある。
宋大使ら政府高官と面会
シンポジウムが行われた早稲田大学・大隈講堂
田原氏は2007年10月30日から11月3日にかけて、テレビ朝日系の情報番組「サンデー・プロジェクト」の取材を兼ねて訪朝。訪問中には、宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化交渉担当大使や、楊亨燮(ヤン・ヒョンソプ)最高人民会議常任副委員長ら政府高官と面会した。特に、宋大使とのインタビューは、約2時間に及んだという。
この訪朝の様子が、11月5日に早稲田大学の大隈講堂で開かれたシンポジウムで明らかになった。「21世紀を担うリーダーとは」題して、早大125周年事業の一環として開かれたもので、田原氏以外の登壇者は、岸井成格・毎日新聞特別編集委員、山崎拓・衆院議員など。聴衆のほとんどが学内者で、特に身分証明書のチェックや荷物検査は行われなかったという。録音・録画は禁じられていた。
2時間のシンポジウムのうち、北朝鮮問題は約20分~25分にわたって取り上げられた。田原氏が、
「実は、一昨日(10月3日)の夜遅く平壌から帰ってきた」
と訪朝の話題を切り出し、
「今北朝鮮は自信に満ちている。BDA(バンコ・デルタ・アジア、米国からマネーロンダリングの窓口だと認定されたマカオの銀行)の凍結解除や日本以外の4カ国からの重油支援が決まったから。このままだと、日本は6ヶ国協議でつまはじきにされるおそれがある」
と6ヶ国協議の行方について問題提起。それに対して、山崎氏が
「核は危ない。非核化が最優先。他の国は非核化の見返りを供与し始めている。拉致問題は分離して考えるべきだ」
と、従来通り「核と拉致は分離すべき」との主張を展開した。
そして、田原氏が訪朝時の政府高官とのやり取りを披露した。北朝鮮側が田原氏に対して「拉致被害者で生存している人はいる」と明言した、というのだ。しかし、この発言をしたのが具体的に誰かは、シンポジウムを聴いていた関係者に取材した限りでは、はっきりしない。この直後に田原氏は「今日は内輪の集まりと言うことで話しますが…」「テレビでは話さないこと」などとも発言していた。