日産自動車が発表した新型車「ニッサン GT-R」に、自動車カスタマイズ業界が戸惑いをみせている。GT-Rは、カルロス・ゴーン日産自動車社長が「日産の車に対する情熱の究極の表現」と語ったスーパーカー。日産車の走りのフラッグシップカーと位置づけられている。その性能をユーザーが購入した後も維持するため、GT-Rには高度な改造防止システムを導入、ユーザーに対し、認定企業のカスタマイズ商品以外は交換しないように呼びかける。認定企業は今のところ日産の子会社2社のみ。2007年12月6日の発売に向けて日産とカスタマイズ業界との戦いが始まった。
カスタマイズ商品の認定企業は2社のみ
GT-Rの登場にカスタマイズ業界は困惑気味だ
GT-Rに搭載した3.8リットルV型6気筒ツインターボエンジン「VR38DETT」は480馬力の最高出力を持つ。2004年に自動車メーカー各社が国内発売登録車の280馬力自主規制を撤廃して以来、12月にはトヨタ自動車の「レクサスISF」(最高出力423馬力)とともに初めてエンジン出力で海外メーカーに引けをとらないスポーツカーが国内で発売される。
280馬力自主規制は1990年に導入された。1980年代に国内メーカーによる自動車のハイパワー競争が激化し、さらに交通事故死者数が急増して第2次交通戦争と呼ばれる時代になっていた。そこで当時の運輸省(現・国土交通省)が自動車業界に対策を迫り、発売中の日産フェアレディZの最高出力280馬力を上限に自主規制を決めたのだ。
しかし自主規制によって、国産スポーツカーは海外のスポーツカーなどに対して競争力を失っていった。そこで2004年に自主規制が撤廃され、04年10月に発売したホンダレジェンド(最高出力300馬力)が280馬力超の第1号となった。その後、280馬力を大きく超える国産新型車は誕生していなかった。
新型車を発売するためには、国土交通省の型式認定を得る必要がある。ところが公道を走行可能な保安基準を満たしていたとしても、自動車は扱い方を間違えれば走る凶器となり、国土交通省はハイパワー競争の再燃に不安を持つ。そこで日産は内々に同省にお伺いを立て、企業責任として道路交通環境下での安全性能確保を目的に、不正改造防止対策を取り入れた。
日産にとっては、同省の理解を得るとともに、整備やカスタマイズ商品の販売・装着といった需要に対して日産陣営からの流出を防ぐことにも繋がる。まさに一石二鳥というわけだ。
GT-Rは全国約2400店の日産ディーラーが販売と車検・法定点検に対応するが、このうち約160店に難度の高い整備作業まで受け持つ日産ハイパフォーマンスセンター(NHPC)が開設される。NHPCには日産がGT-Rの販売・整備のために認定した担当者が常駐し、GT-Rの購入希望者にはNHPCでの購入や整備入庫を推奨する。またカスタマイズ商品の認定企業は日産子会社のニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(NISMO)とオーテックジャパンの2社。NISMOは2008年春にGT-R用サスペンションを発売する。
戦いの山場は来年1月の東京オートサロン?
GT-R購入者にはNHPCで指定された整備を行うことで、購入後2年間は初期性能の維持が約束される。NHPC以外の整備工場でGT-Rを整備したり、認定企業以外のカスタマイズ商品を取り付けたりすると、日産が考える最高のパフォーマンスは保証されない。日産はエンジンのチューニングやカスタマイズ商品の装着、NHPC以外の整備工場での整備が行われたかどうかを把握するため、GT-Rに車両状態記録装置(VSDR)を搭載した。
スポーツカーはユーザーのカスタマイズ需要が多く、カスタマイズメーカーや自動車チューニングショップは新車発売直後から競ってカスタマイズ商品を投入する。これまでの「スカイラインGT-R」には、数多くのカスタマイズメーカーがさまざまな商品を発売してきた。ところが今回のGT-Rで日産は、エンジン出力を上げるROMチューンからマフラー、サスペンション、アルミホイール、エアロパーツなどの交換に至るまで、国が決めた保安基準適合品であっても、認定企業の商品以外はお断りという態度を示した。GT-Rに関して日産は、日産陣営以外の自動車整備業やカスタマイズ業などに喧嘩を売った形だ。
一方で日産は、GT-Rの性能を最高に引き出して走りを楽しみたいというユーザーニーズを想定し、カーナビのGPSを用いて全国の主要サーキット内に限り、時速180kmのスピードリミッターを解除可能とする仕組みを採用した。また不正改造のベース車ではないことを示すために、カスタマイズの最大イベントである東京オートサロンにGT-Rを出展しないことを決めた。
だがGT-Rにカスタマイズが必要か否かはGT-Rの購入者が決めること。
トヨタ自動車がレクサスを国内導入したときも、トヨタは純正品以外のオプション装着の排除を目指したが、翌年の東京オートサロンではさまざまなカスタマイズメーカーがレクサス用の商品を発表した。同様に日産陣営に挑むカスタマイズメーカーの登場は予測できる。日産陣営対カスタマイズメーカーの戦いの山場は、08年1月の東京オートサロンとなりそうだ。