「脳トレ」を追い風に?
広辞苑第6版。「巻末付録」をハンドブックとして別冊化した。
しかし、ネット辞書・辞典の台頭はめざましい。特に「ネットVS紙」で動きがあったのは、07年夏だ。時事用語辞典の分野で、「imidas(イミダス)」(集英社)と「知恵蔵」(朝日新聞社)が「紙」から撤収してネット版に特化することが明らかになった。「紙」を継続するのは「老舗」の「現代用語の基礎知識」(自由国民社)だけになったという訳だ。自由国民社はJ-CASTニュースの取材に対し「老舗は愚直に創刊の志を確認しながら、コツコツ行くしかない」と答えていた。
辞書の分野でも「紙」への逆風は深刻だ。出版指標年報などによると、英語辞書なども含めた紙の辞書の市場は、1997年ごろには約1,200万冊だったのが、2006年には700万冊とも600万冊とも言われるほど収縮している。
「紙の辞書」の強み、について岩波書店の山口昭男社長が07年10月23日、東京都内であった広辞苑の刊行発表会で語った。自身も広辞苑搭載の電子辞書を使い「便利だ」と感じているとした上で、「紙」か「デジタル」の二者択一ではなく、「それぞれの良さを最大限に追求した形で提供したい」と述べた。その上で「紙の辞書」にこだわる理由として、まず一覧性により当初の目的語以外にもどんどん興味が広がり、調べた言葉が記憶に残りやすいことを挙げた。次に辞書の余白に書き込みができることで、自分だけのための使い方の注意点や関心度の高さを記録でき、「自分だけの辞書」にいわば成長させることができることに触れ、「こういうことができるのは紙だけです」と述べた。
また、「その道」の「第一線」の専門家を動員する編集と校閲に今回は165人が関わったことも強調し、「信頼のもとになっている」との考えを示した。ネット情報が便利さと更新スピードの点で「優位」とされながらも「信頼性」に疑問符が付く場合も少なくないということが背景にありそうだ。
一方で「紙の辞書」の販売面での「順風」の兆しもある。ゲームの世界で一大ブームを起こした「脳トレ」だ。第一人者の川島隆太・東北大教授が「面倒な作業をすることでより脳を活性化させることができる」と紙の辞書をひくことを推奨している。毎日新聞朝刊の連載記事の中で幾度となく登場する。「脳を活性化させるためには、面倒でも紙の辞書を使ってくださいね」(10月13日)「便利な道具が必要な脳に、どんどんなっていってしまいます。脳トレにはぜひ、普通の紙の辞書を使ってください」(9月15日)などだ。さらに06年秋に発行された「7歳から『辞書』を引いて頭をきたえる」(深谷圭助・立命館小学校教頭:すばる舎)の影響か、小学生向けの国語辞書の売れ行きが大きく伸びている現象も出始めている。
文化庁が07年2~3月に約2,000人から回答を得た「国語に関する世論調査」によると、書けない漢字があったときに調べる手段を尋ねた質問で「本の形になっている辞書」と答えたのは60.6%(複数回答)で最多だった。携帯電話の変換機能使用が35.3%、電子辞書19.4%、ネット上の辞書10.1%だった。世代間でかなり数値は異なるようだが、全体でまだ6割を占める「紙」派を「多い」とみるか「少ない」とみるかは評価が分かれそうだ。