フジテレビ系で2007年10月11日夜に放送されたバラエティー番組「チンパンニュースチャンネルSP」に対し、大型類人猿を支援する団体「アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い」(SAGA)から抗議の声が上がっている。「絶滅の危機に瀕しているチンパンジーをテレビ番組のショーなどに出演させるべきではない」というのが理由だ。環境省もチンパンジーをテレビに貸し出す動物園に「TVに出している場合じゃないのでは?」と話す。動物園側は、「視聴者を喜ばせるだけでなく、チンパンジーはテレビスタッフなどと触れ合うのが大好きなのに、その楽しみを奪うというのか」と反発している。
「TVに出ている場合じゃないのでは?」と環境省
チンパンジー「スマイル君」がいる「市原ぞうの国」
「チンパンニュースチャンネル」は、司会をチンパンジーの「ゴメス・チェンバリン」(本名:スマイル)が務め、人間のゲストを招きトークや電気自動車レースなどを行う番組だ。「ゴメス」の声は吹き替えで、挙動に合わせたコミカルなセリフを展開、スタジオは爆笑に包まれる。スマイル君(オス6歳)はTV雑誌の表紙を飾るほどの人気。07年10月11日の番組は、深夜に放送された同番組の総集編と、黒柳徹子さんのスマイルが暮らす市原市の私立動物園「市原ぞうの国」(坂本小百合園長)の訪問。また、世界の悲惨な動物の事情を伝えるなどシリアスも盛り込まれた。
これに対し「SAGA」は、フジテレビに番組の放送中止を求めていた。にもかかわらず、放送され「驚きとともに深い失意・落胆・憤りの念を隠すことはできません」とし、「今回の事態を非常に重く受け止め、あらためて関係各所に要望書等を送らせていただくことにいたしました」とする抗議を07年10月11日に行った。
「SAGA」が反対する理由は、「幼少期のチンパンジーを母親や仲間からひきはなし、長距離の移動や、不自然な姿勢・行動を伴う長時間の撮影は多大なストレス」「過度な擬人化、滑稽な側面が強調されることは本来の姿を大きく歪める」「絶滅の危機に瀕した種のため、繁殖と研究、動物園における教育的展示の対象に限定すべき」というものだ。
チンパンジーは金銭での取り引きが禁止されていて、動物園間では繁殖を目指すという条件で移動が認められている。ただし、スマイル君の立場は複雑で、もともと別の動物園で生まれ、親が育児放棄し、その動物園に居られなくなった。引き取られたのが「市原ぞうの国」。今やスマイル君は園内をミニバイクで走って来園者に愛嬌を振り撒くアイドル的存在だが、動物園ではチンパンジーはスマイル君一匹。環境省は動物園に対し、度々テレビに出演したことで事情聴取を行っている。環境省自然環境局野生生物課はJ-CASTニュースの取材に対し、
「TVに出ることが悪いのではなく、TVに出ている場合じゃないのでは?と言っているわけです。繁殖のための適切な飼育をするように、ということなんです」
と話した。
しかし、チンパンジーがTV番組に出るのは、そんなに繁殖や健康に支障になるのだろうか。フジテレビ広報はJ-CASTニュースに対し、
「全く問題ないと思いますよ。収録時間も最低限に留めていますし、移動にも十分配慮しています。環境省にもきっちり相談してやっていますから」
と話した。
TVに出られない寂しさから、自分の毛をむしる
「市原ぞうの国」の坂本小百合園長も、
「TVに出ることは何のストレスもない。それどころか、大好きなんです」
と話す。バスで移動するのも、外の景色を見るのも、テレビ局のスタジオで出演者やスタッフと触れ合うことも、スマイル君はとても楽しみにしているのだという。「チンパンニュースチャンネル」の撮影は2~3週間に1回で、4時間ほどで終了する。
実は11日に放送された「チンパンニュースチャンネルSP」の「市原ぞうの国」での収録は07年1月だったのだという。なぜ園内で収録したかといえば、06年9月に環境省から事情聴取され、以降は園外での番組収録は自粛。「SP」の放送も07年春の放送予定だったのが、半年延びてしまった。そして、テレビ局に行かなくなったことでスマイル君がより元気になったかといえば、全く逆のようなのだ。
「寂しさからなのか、自分で自分の毛をむしったりするんです。彼の楽しみを奪わないで欲しいと言いたいんです」
坂本館長は、今後、どのテレビ局でもチンパンジーが出演する番組は作らない、と考えている。それほど、動物保護団体や環境省からの圧力が強いようなのだ。
「アメリカでもチンパンジーのキャスターがいたり、映画出演しているのに、日本ではタブー視されるとすれば、全くおかしなことです。メディアに出なければ、皆さんの興味が無くなってしまうだろうし、あんなに賢いのに、動物園で見るだけでは『檻をガチャガチャやってる動物』などの間違った理解になってしまうことにもなりかねないのです」
と坂本館長は憂いている。