市町村職員の年金横領問題で、社会保険庁は2007年10月10日、同日までに刑事告発見送りの報告があった大阪府池田市、宮城県大崎市の元職員を両市に代わって告発することを明らかにした。J-CASTニュースの取材に対し、認めたものだ。一方、2市からは、「唐突な感じ」などと戸惑いの声が出ている。
「警察から告発の指示はなかった」と大阪府池田市
2市の元職員への告発方針を決めた社会保険庁
この問題では、舛添要一厚労相(58)の意向を受けて、社保庁が2007年10月2日、7年の公訴時効に達していない9市町の元職員を告発するように各市町に要請。このうち、池田、大崎両市が10日までに、社保庁に対し、「告発しない」と正式な回答を寄せた。
これに対し、社保庁サービス推進課では10日、J-CASTニュースに対し、2市の元職員を業務上横領罪で地元警察に告発する方針を明らかにした。同課の担当者は、「直ちにできるものでなく、元職員の名前と市の処分記録などの物証を確認しなければならない。そのうえで、地元警察と協議して初めて告発することになる」と話す。告発する時期については、「時効の期限が切れてしまったら意味がないので、早急に行うべきものは行う」としている。
社保庁や各紙の報道などによると、このほか告発見送りの方針を示しているのは、群馬県大泉町、三重県鳥羽市、愛媛県新居浜市、秋田県男鹿市、福島県田村市、北海道様似町。告発を決めたのは、東京都日野市だけだった。同市では、元職員を10月4日付で警視庁日野署に告発している。
大阪府池田市では、女性職員(当時42歳)が2002年に国民年金保険料42万6000円を着服・横領したことが発覚した。同市人事課によると、当時、市の調査委員会での検討を経て、1か月の停職処分に。その後、横領金額が確定したため、諭旨免職にしたという。元職員には、退職金656万円余りが支払われた。
なぜ懲戒免職にしなかったかとJ-CASTニュースが聞くと、担当者は「すでに停職という懲戒処分が決まっていたので、これ以上の処分はできなかった。停職処分も軽率に決めたわけではない」と弁明した。また、今回告発を見送った理由については、「当時は、警察や社会保険事務所に報告したが、告発の指示はなかった。弁護士らを含めた調査委員会の答申に沿い、社会情勢や他の事案を考慮に入れて処分を決めた」ことを挙げている。
東京都日野市だけが刑事告発
ところが、この池田市の方針が報じられると、市には電話やメールで「告発すべきだ」「身内に甘い」といった抗議や苦情が、10日までに300件ほども寄せられた。同じく告発見送りを決めた宮城県大崎市にも、これまでに500件ほども同様な電話やメールがあった。
両市は、社保庁の告発方針をどのように考えるのか。池田市人事課の担当者は「まだ分からない状態なので、何とも申し上げられない」と困った様子。しかし、社保庁側に告発見送りを報告した際に、「発覚当時はなぜこうした指導がなかったのか」との異例の文書を添付した。一方、大崎市の柏倉寛総務部長は「組織、権限、人格が違う行政庁がやることなので、なんとも申し上げられない」とコメント。そのうえで、「年金の主管官庁なので、市町村に(告発を)やれではなく、自らの意志でやるのが筋。しかし、当時は、社会保険事務所も処分に納得していた。たまたま大臣が変わったから遡ってやろうというのは、唐突な感じがする」と戸惑いも見せた。
とすると、唯一、告発した東京都日野市は、なぜ方針転換したのか。同市では、女性職員が2000年に国民年金保険料14万7100円を含む公金を着服・横領し、その後、懲戒免職となっている。同市職員課の人事係は、J-CASTニュースに対し、「当時は、最大限の処分であり、社会的な制裁も受けているということで告発しない判断をした。しかし、今回は、上級官庁の社会保険庁、総務省から通知があり、社会問題にもなっていることから、より厳しい対応をしないといけないと考えた。当時の判断が甘かったという認識ではない」と話している。他の市町が告発を見送ったことについては、「よそのことをこちらでコメントする立場ではない」としている。
舛添厚労相に批判的な首長が多い中で、東京都の石原慎太郎知事(75)は、その意向に理解を示している。が、この人事係は「都からは通知を受けていない。あくまでも市としての判断」だと説明する。市には、「よくやった」という電話やメールが20件ほど寄せられているという。
もっとも、各市では、横領を証明する書類がすでに破棄され、当時の警察が事件を知りながら告発を指示しなかったなどの事情もある。だが、社保庁サービス推進課では、「社会的な制裁を受けているかどうかなどは、司法できちっと判断すること。お金を返せばいいというものでもない」とあくまで強気の姿勢だ。