インド洋での海上自衛隊の給油活動継続の賛否について、各種世論調査をみると「賛成」派がじわり勢いを増しているようだ。発足後間もない福田康夫首相の内閣支持率も「好調」を続けている。2007年7月の参院選で自民党を惨敗に追い込んだ「世論」の風向きは変わりつつあるのだろうか。
読売、NHK、日経など逆転が相次ぐ
国会での論戦が注目される
海自給油活動継続を巡っては、11月1日に現行の「テロ対策特別措置法」の期限が切れるのを前に与野党の攻防が続いている。活動を続けるための新法提出を目指す政府・与党に対し、参院の与野党逆転で「発言力」を増した民主党の小沢一郎代表は「憲法違反だ」と反対する姿勢を明確にしている。民主党は与党が呼びかける事前協議に応じない構えを見せている。
読売新聞は07年10月10日朝刊で、最新の世論調査の結果を報じた。給油活動継続については「賛成」49%、「反対」37%だった。7月末の参院選惨敗を受け「満身創痍」だった安倍晋三前首相が辞任表明する直前の9月8、9日に行った世論調査では、「賛成」29%、「反対」39%だったので、単純比較すればわずか1カ月で10ポイントの差がきれいに賛否逆転したことになる。
また福田内閣の今回の支持率は59.1%、不支持率26.7%。就任直後の9月末の世論調査では内閣支持率57.5%と発足直後の支持率調査(1978年発足の大平正芳内閣以降)で「4番目の高さ」だった。調査方法は違うが単純に見れば「勢いをキープ」した形だ。
給油継続問題で賛否が逆転する傾向は、ほかの数字でもうかがえる。NHKが10月9日に報じた世論調査では、給油活動を継続するための「新しい法案」について「賛成」25%、「反対」21%、「どちらともいえない」46%とわずかながら「賛成」が上回った。8月14日に報じた世論調査では、「『テロ対策特別法』の延長」について「賛成」24%、「反対」31%と賛否が逆だった。ちなみに10月の福田内閣支持率は58%と「支持しない」27%を大きく上回った。
産経新聞が9月末に報じたFNN(フジニュースネットワーク)との合同世論調査は、給油継続に「賛成」が51.0%と半数を超え、「反対」は39.7%だった。8月末の合同調査では、「賛成」34.2%、「反対」54.6%だった。
9月27日朝刊の日経新聞の世論調査では、給油継続に「賛成」47%、「反対」37%とやはり8月末の調査と比べ、賛否が逆転していた。
ただ、朝日新聞の9月14日朝刊の世論調査結果は、「自衛隊の活動継続」に「賛成」35%、「反対」45%と反対が上回っている。9月27日朝刊にも福田首相の組閣を受けた世論調査を掲載しているが、給油継続に関する項目は見当たらず、福田首相に焦点を絞った内容だった。
自民に余裕、民主に危機感?
各種世論調査の数字は、7月末の参院選でもろに「逆風」を受けた自民党への「風向き」の変化を示すものなのだろうか。この間の動きとしては、9月12日の安倍前首相の辞任表明や9月25日に事実上発足した福田内閣の誕生が挙げられる。また、9月20日には給油継続に「関係する」国連決議が出たことに関する報道もあった。
国連決議は、アフガニスタンの国際治安支援部隊の任務を延長する内容だ。この決議の前文に自衛隊が給油活動で参加する米国主導の対テロ作戦への各国の貢献に対して「謝意」を表明した、というのが報じられた。政府は国連の「お墨付き」を得たとばかりに高く評価した。一方の民主党は、決議は日本政府が米国に働きかけた結果と報じられ、ロシアが棄権に回ったことと合わせ民主党の主張に影響はない、と受け止めている。
また「変化」といえば、9月末発足の福田内閣に石破茂防衛相が入閣したことも影響した可能性がある。前内閣からの再任や横滑りが多かった中で数少ない新任大臣として就任した。旧防衛庁長官経験者でテレビ出演も多く、防衛問題では「論客」として知られている。
風向きの変化は、与党も民主党も感じている様子だ。福田首相は10月9日、衆院予算委員会で給油継続問題に触れ「(海自の)活動を理解してくださっている方がだんだん増えてきている」と答弁した。一方10日のロイター報道によると、民主党の山岡賢次・国会対策委員長はロイターのインタビューに対し、自民党への批判を展開した。法律の期限切れで海自艦船が日本に戻ってきた場合「民主党の責任にするというように政局に利用している」とした。その上で「民主党悪者論という政局の宣伝活動が、それなりの効果をあげているのは事実かもしれない」と危機感を表明した。それでも「国会が始まり、われわれの正当性を国会で訴えていけば形勢は変わり、大きく世論は変わってくる」との考えを示した。