山口県光市の母子殺害事件を巡り、被告の弁護士らが、テレビで自らへの懲戒請求を煽ったとして橋下(はしもと)徹弁護士(大阪弁護士会所属)を訴えた異例の弁護士間訴訟。2007年9月27日に広島地裁であったその第1回口頭弁論は、予想通り全面対決の様相となった。が、そこに留まらず、ブログでの両者の応酬もヒートアップしている。
橋下弁護士不出廷の件などで論戦
懲戒請求呼びかけを巡って被告弁護士らと裁判になっている橋下徹弁護士
訴訟のきっかけは、タレント活動もしている橋下弁護士が、2007年5月23日放送のテレビ番組で、被告弁護士らの懲戒請求を呼びかけたことから。被告弁護士らが、差し戻し控訴審で「殺害後に強姦したのは『死者を復活させる儀式』」などと新主張をしたことを受けての請求呼びかけだった。これに対し、被告弁護団21人のうち今枝仁弁護士ら4人(いずれも広島弁護士会所属)が、橋下弁護士による呼びかけで懲戒請求が殺到して業務に支障が出たとして、1人当たり300万円の損害賠償を求めて提訴していた。
9月27日の第1回口頭弁論には、橋下弁護士は出廷せず、事前に用意した答弁書を通じて「発言に違法性はない」と全面的に争う方針を示した。一方、今枝弁護士ら原告側は、法廷で「(被告の)言動は刑事弁護人の職責について誤解や偏見を助長し、職務を萎縮させる」などと陳述した。
初めての弁論は淡々と終わったが、橋下・今枝両弁護士のブログはすでに盛り上がっている。裁判翌日の28日には、早速、橋下弁護士が「原告らの非常識さの露呈」などとブログで宣戦。今枝弁護士も自らのブログで「橋本弁護士批判論」を繰り広げた。
論点はいくつかあるが、まずは橋下弁護士が出廷しなかった件。今枝弁護士は、「こういう社会的に重大な裁判は、東京のテレビ局に収録に行っている暇があるなら、出席すべきです」と指弾した。一方、橋下弁護士は「僕のテレビ番組への出演の仕事は、弁護士の仕事に劣らず、仕事として非常に重要です」「まだまだ弁護士様は偉いんだ症候群から脱し切れていない」と応酬した。
また、裁判が、橋下弁護士の求めから、第2回口頭弁論以降は非公開の「電話会議」という形で進められることについて、今枝弁護士は、「『裁判の公開』は憲法上の要請であり、傍聴席への公開を通じて国民に裁判が公開され、裁判の民主的監視の担保が最低限なされているのです」と指摘。一方、橋下弁護士は、「世間の皆様への報告は、ネットや報道陣への取材対応で十分。それをわざわざ公開法廷にするために、仕事をキャンセルしてまで広島まで行ってられるかっていうの」と反論した。
今枝弁護士が表現を修正
批判合戦は、弁護士間裁判の意味にまで及んだ。
今枝弁護士は、この裁判で主張することとして、弁論の意見陳述で、「弁護士への懲戒請求の制度趣旨を誤解しないで頂きたい」「刑事裁判における刑事弁護人の役割を正しく理解して頂きたい」と訴えていた。これに対し、橋下弁護士は、「たまたまメディアが取り上げてくれているけど、本質的には、弁護士間の大人げないくだらない痴話げんかなんだよ!! 分からないのか!!」と一喝。「原告らは公開の法廷で、何か大弁論を展開したいのか知りませんが、僕は、そんな原告らの趣味に付き合うほど暇ではありません」とも述べている。
両者のブログでは、お互いにどこの発言について述べているのか定かでない部分も多い。このため、議論が必ずしもかみ合っていないが、淡々と進む法廷をよそに、ネットではすでに本格論戦の様相を呈している。
とはいえ、批判ばかりでなく、お互いに歩み寄る部分も見られる。
今枝弁護士は、思うところあってか、9月28日付日記の批判論を午後に修正し、「卑怯」「嘘」「違法」の個所を削除。「?」などの柔らかい表現に変えた。また、注を付けて、「昨日の私のコメントが、橋下弁護士が言うようにコメンテーターやタレントの皆様一般に対する誹謗と受け取られるようであれば、表現に問題があったことを謹んでお詫び申し上げます」と述べた。
さらに、「橋下弁護士という論敵(ライバル)を得て、私に開眼することもあったことを、素直に告白します」ともしている。
一方、橋下弁護士も、今枝弁護士側の変化を評価し始めた。28日の日記に書いた「原告ら記者会見について」で、「原告らも、世間に説明する必要性をやっと感じたようです」と認めた。「特に、被害者遺族に対して配慮する態度が見られてきました。今枝弁護士は、集中審理後に号泣したことに関し、被害者遺族に対する配慮に欠けていたことを認めたようです」と理解を見せた。そして、「現代社会の弁護士像に、今枝弁護士は近づいたのではないでしょうか?」とも述べた。
ただ、裁判の根本的な争点は変わっていないようだ。今枝弁護士は、この裁判を弁護士間の痴話げんかとした橋下弁護士に対し、修正版で「一般人でも、仕事(それぞれに重要)より裁判が大事と思う人が多いのではないでしょうか」と反論。橋下弁護士も、日記で、「今回の皆さんの多くの懲戒請求は、僕の裁判とは無関係に、大きな効果を生みました」と述べている。