「世の中はリニア(直線)で考えられない時代になった。世界的な好況で必要とする資金は増えているが、金融市場の混乱の先行きがどうなるか予測することは難しく、しばらくは注意が必要だ」
佐々木幹夫日本貿易会会長(三菱商事会長)は2007年9月20日、東京都内のホテルでの定例会見で、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライ ムローン)問題を発端とする金融不安問題の先行きについて、複雑化する国際金融情勢を踏まえ、慎重な発言を繰り返した。技術畑出身とあって、大商社の首脳とは思えない超ミクロの世界に通じているため、ナノテク社長とのニックネームをつけられた佐々木会長だが、サブプライム問題についても「世の中はノンリニアの時代」と複雑系社会への対応の必要を説いた。
サブプライム問題は当初、米国内の問題と見る見方が多かったが、ドイツや英国などの金融機関も巻き込まれていることが判明するなど次第に波及が広がっており、米連邦準備理事会(FRB)が0.5%の大幅利下げに踏み切ったのに続き、欧州中央銀行(ECB)と日本銀行も利上げを見送るなど、日米欧の中央銀行は「警戒モード」で足並みをそろえた。
佐々木会長は「サブプライム問題の影響は現時点では深刻だが、実態経済に影響が広がるとは思わない。貿易業界への影響は限定的」と語ったものの、「サブプライム問題の全貌はまだわかっていない。先行きに注意を払う必要がある」と付け加えることを忘れなかった。
日本の上場企業の業績は堅調で、大手商社の2007年度決算も順調な見通しだが、米住宅着工件数が12年ぶりの低い水準になるなど、サブプライムローンの焦げ付き問題をきっかけにした金融市場の動揺はなお続く見通し。実態経済にも影響がじわりと出ているだけに、BRICsを中心とする新興国市場の台頭でにぎわっている世界のビジネスがここでブレーキがかかっては、世界を相手にする貿易業界としても影響は無視できないと事態を精査する方向に出たわけだ。