人材派遣大手・グッドウィルの派遣労働者26人が2007年8月23日、東京地裁に同社を提訴した。グッドウィルに「データ装備費」の名目で天引きされた給与計約455万円の返還を求めるものだ。「ワーキングプア」と呼ばれる若者たちの「貧困」が問題になっているなかで、この提訴が与えるインパクトは何なのか。そして、厳しい労働を強いられている「ワーキングプアの逆襲」はこれからもあるのか。グッドウィルを提訴した原告が参加する派遣労働者でつくる労働組合・グッドウィルユニオン書記長の関根秀一郎さんに聞いた。
――グッドウィルを相手取った訴訟では、「データ装備費」の全額返還を求めていますね。今回の訴訟は、派遣労働者たちにとってどのような意義があると考えますか。
ご承知のとおり、「データ装備費」というのは1稼動について200円天引きするというもので、あきらかに違法な天引きです。現在、グッドウィルは2年分を返還するという事ですけど、全額返還を求めて訴訟に踏み切ることになりました。彼らが訴訟に踏み切った背景には、あまりにもひどい労働条件、低賃金、不安定な雇用条件で働かせられていることがある。しかも、一ヶ月フルに働いても収入は10数万円にしかならない。こういった酷い働かせられ方に、怒りが爆発した。自分たちがきちっと生活できる仕事をよこせ、と訴えかける。それが、今回の訴訟の根底に流れている意義だと考えています。
「使い捨て状態」改善のスタート地点に立った
――怪我をした時のためだと聞いていたのに、港湾で荷さばき業務中、左足を骨折したのに「データ装備費」分の保険が支払われなかったという報道もありました。
「グッドウィル訴訟の原告は増えていく」と語る派遣ユニオン・関根秀一郎さん
彼は今年の2月に荷おろし作業中、荷崩れで膝がはく離骨折してしまう重い怪我をした。実は、労働者派遣法で禁止されている港湾業務だったのです。相当昔からグッドウィルで働いていて、「データ装備費」は怪我や労災のときの保険だという説明を受けていました。ところが、入院先でグッドウィル担当者に話をしてみると「今はその保険はありません。労災保険を適用します」という答えが返ってきて、彼は非常に驚いたわけです。
「データ装備費」について背景をお話しすると、グッドウィルは1995年に設立されましたが、当時、肉体労働の労働者派遣は禁止されていました。しかし、グッドウィルは脱法的に派遣事業をやっていて、派遣先と業務委託契約を結んで派遣を行う「偽装請負」が当初のやり方でした。事故があった場合、「偽装請負」がばれてしまうから、労災隠しをする。グッドウィルは自分のところで医療費を払ってあげる。これでいいだろう、と説得した。この費用が「データ装備費」であり、当初は労災隠しの費用として積み立てが行われていたのではないかと言われています。
ところが、1999年に労働者派遣法が改正されて派遣可能な業務が自由化され、グッドウィルもその頃から急速に拡大していく。このときグッドウィルがおこなっていた、日雇い派遣、肉体労働を中心とした派遣が合法化されます。たとえ事故があっても労災隠しをせずに労災適用できるようになった。そのころから「データ装備費」がグッドウィルにとっての「利益」という形に変わっていったのではないかと言われています。労災隠し費用だとしても利益だとしても、いずれも許されることではありませんけどね。
――フルキャストの場合は「天引き」について全額返還するということになったようですね。フルキャストの場合も古くから派遣労働者の給与の「天引き」を行っていたのでしょうか。
フルキャストも250円の「業務管理費」を給与から天引きしていましたが、正式には2007年7月6日に私どもとの団体交渉のなかで全額返還すると回答して、7月30日に全額返還の協定書を結び、8月1日から返還のための手続きを開始しています。
フルキャストは1992年に創業しているわけですけれども、その当時から「業務管理費」を引いていた。フルキャストは創業時にさかのぼって返還することを約束しています
――フルキャストをはじめ返還の動きが出てくることで、「使い捨て」ともいうべき派遣労働者の環境がこれから変わってくるのでしょうか。
どこがどう変わっていくかは、これからにかかっている。少なくとも、「不当天引き」については、返還される流れになってきている。もちろん、グッドウィルは全額を返さなきゃいけないわけですけどね。ただ、派遣労働者の労働条件については、朝早く集合しても、その分の給与が支払われていない、仕事が突然キャンセルになったときの賃金保証もないという現状もあります。日雇い労働者がおかれている「使い捨て状態」を改善していく、そのスタート地点に立ったというところです。