水産資源の保護が国際的な問題となる中、日本人の好物であるマグロ、しかも最高級とされる漁獲枠が削減され、「マグロが食卓から遠のくのでは」という声も上がっている。そんな中、これまでの「稚魚を捕獲して育てる」方式の養殖ではなく、卵から育てる「完全養殖」の取り組みが進んでいる。一度は「採算が合わない」と撤退した企業も「再チャレンジ」を表明した。
稚魚を捕獲し、育成する「畜養もの」とは大違い
築地市場のマグロはどうなる
水産資源を管理する機関「大西洋まぐろ類保存国際委員会」(ICCAT)は、2007年1月に開いた会合で、06年には2,830トンあった日本のクロマグロ漁獲割当量を順次削減することを決めた。07年が2,516トン、08年が2,413トン、09年が2,345トンと段階的に減少する。クロマグロはトロが多く取れ、マグロの中でも最高級だとされる。「『海のダイヤ』がさらに遠のくのでは」という声も挙がった。
もっとも、このような「天然物」は「超高級品」で、一般的に流通しているのは養殖ものだ。ただ、養殖といっても、日本近海でマグロの稚魚「ヨコワ」を捕獲し、それを海上のいけすで育成したものを出荷する「畜養もの」がほとんどだ。この方式だと、どうしても稚魚は天然から調達しなければならない、というリスクが残る。そこで、卵から生魚まで育て、さらにそこから卵を採取して次の世代を育てるという「完全養殖」の事業化が進んでいるのだ。
近畿大学発のベンチャー企業「アーマリン近大」(和歌山県白浜町)は2004年9月、「完全養殖」のクロマグロ3匹を初出荷した。近畿大学水産研究所(同)が、02年に完全養殖の技術を世界で初めて確立した成果を受けて、02年に孵化した卵から2年かけて育てたクロマグロを出荷したものだ。同社では、これまでに全国で600匹弱を出荷。07年4月には、米ロサンゼルスへの輸出も実現した。
だが、同社専務の大久保嘉洋さん(07年9月までは同研究所事務長を兼務)によると、畜養ものの養殖期間は半年から1年なのに対して、完全養殖ものには2年~3年かかる分、コスト高は避けられないという。大久保さんは
「(卵という)最初の段階からトレーサビリティー(生産履歴)を提供できるのが完全養殖の強み」
と話し、「食の安全」の面からアピールしたい考えだ。
マルハも完全養殖に再チャレンジ
さらに、同水産研究所が07年8月9日に発表したところによると、02年生まれのクロマグロが6月28日から7月27日にかけて産卵し、完全養殖のサイクルが「2回り」した。8月1日時点で生存している稚魚数は約2万。大久保さんによると、出荷可能な状態まで育つのは10~20%だとのことで、「2,000~3,000匹は出荷したいですね」と意気込んでいる。
近畿大学が「最先端」を突っ走る一方で、「再チャレンジ組」もいる。
マルハも1987年から、クロマグロの完全養殖事業に取り組んでいたが、量産化には至らず、10年後の97年には「研究課題がまだ多く、採算に乗る見通しが立たない」といった理由で撤退に追い込まれていた。ところが、10年後の07年4月16日には、「近畿大学に続け」とばかりに、完全養殖に再チャレンジすることを発表したのだ。具体的には、07年から09年にかけて福山大学や長崎大学など4大学の専門家と協力して研究を進める。子会社の「奄美養魚」(鹿児島県瀬戸内町)を拠点に、07年度は卵1億粒を採取。09年度末までに体長20センチの稚魚5,000尾を育てたい考えだ。