重いうつ病の治療薬としても使われる向精神薬「リタリン」の乱用が問題になっている。このため、製造販売元はリタリンの「適応症」から難治性うつ病をはずす方針を固めた。これで、「まるで覚せい剤」といわれるほど危険なクスリの蔓延は防げるのか。
鼻で吸うと「即効性はあるが作用時間が短い」
リタリンについて言及するサイトは多い
リタリンは、重いうつ病以外にも、睡眠障害「ナルコレプシー」やADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療にも使われている。一方で覚醒効果が得られ「覚せい剤代わり」に使う人が増え問題となっている。「麻薬及び向精神薬取締法」で「向精神薬」と位置付けられ、取締りの対象となっている。治療目的で手に入れるには医師の処方が必要だ。しかし、うつ病の「ふり」をして不正に入手する例や病院側が安易に処方している例が指摘されている。
東京都は2007年9月18日、新宿区の診療所「東京クリニック」に立ち入り検査に入った。リタリン処方を「乱発」し、「まるで覚せい剤を販売しているようだ」と批判が寄せられていた。過去10回の口頭・文書指導に従っておらず、インターネット上でも「簡単に処方が出る」と「人気」の診療所だった。
「入手先」はネット上にもある。「合法ドラッグ」を販売するサイトは簡単に見つかり、「リタリン」も項目に入っている。「リタリン個人輸入ガイド」など違法輸入を「勧める」サイトもある。リタリンの「楽しみ方」を指南するページもあり、「スニッフ」(薬を砕いて鼻からストローで吸う行為)について「即効性はあるが作用時間が短い」などの表記があった。
覚せい剤と違い、リタリンは個人が単に(販売目的ではなく)持っていたり使用したりしただけで逮捕されることはない。販売・譲渡、不正入手した側が取り締まり対象だ。07年7月には宮城県警が、ネット上で「リタリン」を違法販売(譲渡)した疑いで男女を逮捕した。また、07年1月には東京都が自分の処方箋をコピーして大量のリタリンを不正入手した「患者」を摘発したことが明らかになった。過去には不正に処方箋を書いた医師が逮捕された例もある。
SNSのmixi(ミクシィ)を巡る「リタリン」違法販売事件も起きた。ミクシィ内にはリタリンの売買・譲渡を促す内容のコミュニティがあり、知人のアカウントを不正入手した上で違法販売した容疑者が07年6月に熊本県警に逮捕された。6月29日にJ-CASTニュースも取り上げた。
うつ病関連での処方はしないようになる
摘発されるのは氷山の一角である可能性を考えれば、患者が薬物依存になる問題に加え「不正にドラッグとして使用する」目的のリタリンがかなり出回っていそうだ。
事態の改善を目指し、リタリンの製造販売元ノバルティスファーマ(東京)はリタリンの「適応症」から難治性うつ病をはずす方針を固めた。9月21日に新聞各紙朝刊が報じた。適応症から外れれば、うつ病治療のためとしては医療保険が適用できなくなる。精神科関連の学会などと意見調整した上で決めるとしている。薬物としての乱用実態を踏まえた上で、ほかにうつ病対策の優れた薬が開発され役割を終えたという認識だ。リタリンは1958年販売開始という「古株」だった。ノバルティスファーマの広報担当者によると、海外でもリタリンは使用されているが、現在は「うつ病」治療として使用されているのは日本だけだ。
「適応症からのうつ病除外」でリタリン乱用は防げるのだろうか、ほかに同様の薬物はないのだろうか。厚生労働省審査管理課は、リタリンは商品名で主成分は「塩酸メチルフェニデート」だと説明した。「ほぼ同じような薬」は他社の製品を含め「ないと考えていい」。新しいうつ病治療薬は、タイプが違うという訳だ。
リタリンの適用症からうつ病をはずす効果については、監視指導・麻薬対策課が「保険の適用の有無に限らず、原則的にうつ病関連での処方はしないよう指導することになると思う」との見通しを明かした。インターネットで簡単に購入できてしまう現状については、広告規制は外国にサーバーを設置されると困難で「非常に残念だ」と苦々しさを口にした。さらに、ネットで買っただけでは買った方は罪に問えない、という問題点も残る。