長谷川洋三の産業ウォッチ
エタノール革命:サトウキビ農工業会長の自信と明るい未来

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「世界的にガソリン燃料をバイオエタノールに切り替える動きが急速に広がっている。サトウキビ処理プラントの建設などエタノール生産を増やす必要があるが、ブラジルは世界最大の農産物生産国であり続けるし、食料とバイオエネルギーは両立できる」

   ブラジル最大の砂糖・エタノール業界団体であるUNICA(サトウキビ農工業会)のマルコス・サワヤ・ジャンキ会長は2007年8月27日、ジェトロのブラジル・バイオエタノールミッションとともにサンパウロ市の本部を訪れた私に、よく通る大きな声でバイオエタノールの明るい未来を語った。

7月からエタノール25%混合が義務化される

   ジャンキ会長の楽観論を支えるのは、原油の高騰と地球温暖化対応を背景にガソリンの最大のユーザーである自動車業界でバイオエタノールを導入する動きが活発になっていることだ。世界最大のサトウキビ生産国であるブラジルでは1970年代の二つの危機を機に、サトウキビ原料のバイオエタノール増産に力を入れてきたが、2007年7月からはエタノールを25%ガソリンに混合することを義務づけた。

   ブラジルのガソリンスタンドで提供するガソリンには自動的に25%エタノールが混合されているわけだが、スタンドでは通常ガソリンスタンドと同時にエタノール(表示はアルコール)スタンドも併設されている。エタノール価格は混合ガソリンより大幅に安いが、エタノールの燃費効率はガソリンより劣るため、人々はその日の価格設定などを見ながら混合ガソリンにするかエタノールにするかを決める。

   私がサンパウロ市郊外で見たブラジル石油公社ペトロブラスのスタンドでは、ガソリンがリッターあたり2.399レアル(1ドルは約2レアル)に対し、エタノールは1.095レアルと約半値だった。ガソリンとエタノールの価格差は時期によっても違うが、原油価格の急激な値上がりを反映して値上がり気味のガソリンに対し、比較的落ち着いた価格推移を示しているエタノールはそれなりに人気を集めている。

   エタノールがまったく含まれないガソリンの販売が禁止されたことで対応に追われているのは自動車業界だ。京都議定書で植物由来のエタノールは成育過程で二酸化炭素を吸収するので地球温暖化に貢献すると認められたこともあり、世界的にバイオエタノール使用が見直されているが、エタノールのオクタン価はガソリンより高いが、発熱量はガソリンの0.6と燃費が悪いほか、水との親和性が強いため腐食耐性を強めるには燃料系統部品の強度を高める必要がある。また揮発性が低いため気温が低いときなどにはエンジン始動時に発火性を高めてエンジンをかかりやすくする工夫などが必要。

「ブラジル向けの四輪車はすべてフレックス車に切り替える」

   そこでブラジルに進出している自動車各社は、耐食性の強い部品を使ったり、エンジン始動時に発火を助けるガソリン注入装置をつけたりして、エタノール対策に懸命だ。どんなエタノール混合率にも対応できるようにしたのがフレックス車で、イタリアのフィアットを手始めに、独フォルクスワーゲン、米GM(ゼネラル・モーターズ)、フォード・モーターなどが相次いでフレックス車の投入に踏み切った。日本のホンダも2006年末から「シビック」、「フィット」、トヨタ自動車も2007年春から「カローラ」のフレックス車を発売した。

   ホンダの主力工場であるサンパウロ州スマーレー市のホンダブラジルの四輪工場で対応してくれたツヨシ・ナツメダ取締役は「ホンダのフレックス車は、エンジン始動を補助するガソリンタンクをエンジンルームから離れた外側に出すことで安全性を確保した。必要部品は日本から取り寄せているが数量が増えれば現地化もありうる。ここでは輸出車も生産しているのでフレックス車とガソリン車のへ併用生産ラインだが、10月にはブラジル国内向けの四輪車はすべてフレックス車に切り替える」と語った。

   ブラジルではフレックス車の普及が急速に高まっており、2007年上半期では全新車販売台数約百十万台のうち約80%がフレックス車が占めた。ブラジルの新車販売は10%を超える勢いで伸びており、2007年は前年比15%増の二百三十万台にのぼる見通し。今後バイオエタノールが国際的に広がる中で、フレックス車が自動車業界の環境戦略に与える影響は大きい。

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