2007年9月18日発売の「週刊ダイヤモンド」が、朝日、日経、読売の3社が共同でポータルサイトを立ち上げる計画があると報じた。ネットに押されてじり貧の新聞社が、ヤフーに対抗するサイトをぶち上げるのだという。朝日、読売は「コメントは控えたい」としている。ただ、「ニュースだけでは魅力あるサイトにならない」などという冷めた見方も出ている。
他のポータルサイトへの情報配信はやめる?
「新聞没落」とセンセーショナルな見出しをつけた「週刊ダイヤモンド」9月22日号の記事
「新聞没落」――。週刊ダイヤモンドが、2007年9月22日号で、沈む夕日の写真をあしらった表紙にこんな刺激的で派手な見出しを付けた。計5章32ページにわたる膨大な記事は、すでにメディアで報じられた内容をまとめた側面もある。が、ひとまとめになるとインパクトがあり、中には、スクープともみられる記事があった。
それが、朝日、日経、読売の新聞3社が、共同でポータルサイトを立ち上げる見通しを報じたものだ。プロジェクト名は、3社の頭文字を取って「ANY(エニー)」。記事によると、プロジェクト開始の予定日は9月25日とある。
これまでライバル関係にあった3社が手を組むというのは、どう考えても異例中の異例だ。何が背景にあるのか。記事では、購読者数の減少、広告収入の落ち込みから、発展の著しいインターネットで新たな収益源になる事業を興そうという狙いがあるとしている。
週刊ダイヤモンドの説明はわかりにくいが、エニーが収益源になるというのは次のような理由らしい。新聞社は自社サイトを持っているが、記事が無料で読めるため新聞部数の減少を招いており、その分をサイトの広告費で稼がなければならない。そこで、新聞社3社が共同でヤフーのようなポータルサイトを作り、より高い広告収入を見込んでいるというのだ。
この報道は事実かどうか、J-CASTニュースでは、朝日新聞社に取材を申し入れた。すると、同社の広報担当者は、「いずれご説明することがあるかもしれませんが、現時点でお話できることはございません」と答えるのみだった。
週刊ダイヤモンドの記事では、ライバルの大手紙幹部の話として、「他のポータルサイトへの情報配信はやめるという項目」がエニーの肝になるとしている。ということは、3社の中で唯一ヤフーに記事を配信している読売が配信を止めるということだろうか。しかし、読売新聞社広報部の担当者は、J-CASTニュースに対し、「申し訳ないですが、今はイエスともノーともお答えできない。もう少しすれば話せるかもしれません」と言葉を濁した。
ネットで奪われた読者をネットで取り返す作戦
実際、新聞社の業績は落ち込んでいる。日本新聞協会によると、2006年の日刊紙の発行部数は、ピークだった1997年より約3%減の5231万部。若者層を中心にネットに侵食されている部分が多いとみられ、その傾向は広告費に顕著に現れている。電通が発表した主要媒体別広告費の構成を見ると、インターネットが06年までの10年間で約6%増加したが、その増加分近くを逆に新聞が減らしている。
週刊ダイヤモンドの記事では、収益力があるとされる朝日でも、3年後には新聞事業部門の収支が赤字になりかねない状況だとした。その背景には、広告収入の大幅な減少があるという。それによると、06年度は前年度より約100億円、率にして7.3%減って1300億円程度に落ち込み、ピーク時の3分の2になるという。こうしたことから、朝日は、リストラ策として、赤字の出版部門を08年4月1日に独立させ、子会社の「朝日新聞出版社(仮称)」を設立するという。また、船橋洋一主筆を中心に、高級紙を創刊する構想もあるとしている。
これに対し、朝日新聞の広報担当者は、J-CASTニュースに対し、「新聞業界全体が厳しい状況にあるのは間違いありません。3年後の弊社の収支予測は現時点では困難ですが、『赤字』になるようなことがないように鋭意努力しています」とコメントした。広告収入の数字は公表しておらず、出版部門独立や高級紙創刊の話は、決定事項ではないという。
いずれにせよ、エニーの計画が事実とすれば、ネットで奪われた読者をネットで取り返す作戦と言えそうだ。ヤフーには、脅威にならないのだろうか。同社の広報担当者は、J-CASTニュースに対し、「エニーについては、出来上がったものを見てみないと何とも言えない」と話す。ただ、共同通信社が地方新聞などと共同のポータルサイト「47NEWS」を立ち上げてヤフー配信を止めており、朝日、日経はこれまでヤフーの配信呼びかけに応じていない。それだけに、担当者は、「読売からは配信中止の話は一切ないが、情報提供元があってのサービスだけに、危機感がないといえばウソになる」と打ち明けた。
エニーが実現すれば、ヤフーに匹敵するサイトになるのだろうか。週刊ダイヤモンドでは、「論調の違い」や「ネットの素人集団」と問題点を挙げる一方、3社共同歩調によるインパクトはあるとしている。毎日新聞OBでITに詳しいジャーナリストの佐々木俊尚さんは
「まず成功しないでしょうね。ヤフーなどで進められている双方向コミュニケーションの重要性を新聞社は理解していないし、やってもうまくいかない。また、ネットオークションなど豊富なコンテンツを持つヤフーと違って、ニュースだけでは収益モデルを作りにくいことなどがあります。むしろ高級紙の方が、今後、可能性がありますね」
と話している。