「民営刑務所」のオープンで注目を浴びた「民間資金を活用した社会資本整備(PFI)方式」だが、汚職事件の舞台となった高知県の病院も、この方式で整備されたものだった。「民の力を取り入れて安上がりに」と伝えられる同制度だが、導入さえすれば「即収支改善」とはいかないのが現実のようだ。過去のPFI方式で行われた事業にも、さまざまな問題が指摘されてきた。
「高知医療センター」をめぐって汚職事件が発覚
汚職の舞台となった「高知医療センター」のウェブサイト
PFIは英国で1992年に導入され、社会資本の建設や運営に民間の経営ノウハウを取り入れ、効率化と採算性の向上を図るための制度だ。民間企業が特定目的会社(SPC)を設立、SPCが自治体と契約を結んで事業を行う。国内では99年にPFI法が整備され、全国で導入が進んだ。
内閣府によると、実施方針を公表済みの事業数は06年度末で230件。事業費も1.8兆円に達する。最近の例では、警備会社「セコム」などの企業グループによるSPCが建設から運営までを担う刑務所「美祢社会復帰促進センター」が07年4月にオープン、「民営刑務所」として注目された。
ユニークな例としては、在エジプト日本国大使館も、大成建設グループがSPCとして携わるPFI方式で立て替えられ、07年10月28日には新オフィスでの業務が始まる。
そんな中、05年3月に国内で初めてPFI方式が導入されオープンした公立病院「高知医療センター」(高知市)をめぐって汚職事件が発覚した。07年9月16日、高知県警が同病院の前院長で現在は同志社大学教授の瀬戸山元一容疑者(63)を収賄容疑で、同病院のSPC「高知医療エフピーアイ」(高知市)の現場責任者だった無職松田卓穂(68)・同矢倉詔喬(のりたか、64)の2容疑者を贈賄容疑で逮捕した。松田・矢倉容疑者は、SPCに参加していた「オリックス・リアルエステート」(現・オリックス不動産)の社員だった。
瀬戸山容疑者は、病院施設整備の責任者を務めており、SPC側のコスト削減に便宜を図った謝礼として、松田容疑者らからソファやプラズマテレビ、冷蔵庫などを受け取った疑いが持たれている。収賄側は容疑を否認する一方で、贈賄側は認めているといい、両者の言い分は食い違っている。
PFI導入後も赤字が続く背景
同病院をめぐっては、PFI導入後も赤字が続いており、07年度予算でも、約16億7,000円の赤字になる見通し。「PFIを導入すれば即収支改善」とはいかないのが現実のようだ。背景の一端が、医療関係者向けの雑誌「日経メディカル」06年4月号で紹介されている。記事では、医療器具などの材料費が目標を大きく上回ったことを紹介。
「その価格が民間病院と比較してどうなのか、ベンチマークができていない。オリックスが医療を知らないため、契約した企業のマネジメントができなかったということ」
という、医療業界からの「SPCには病院運営のノウハウがない」という非難めいた声と、
「『民』に押しつければ、すぐにすべてがうまくいくと思いこんでいるのではないか」
SPC側の反発の声が紹介されている。
PFI方式で行われた事業がトラブルに巻き込まれた例は、他にもある。
05年7月に仙台市でオープンした複合健康施設「スポパーク松森」では、そのわずか2ヶ月半の8月16日に起こった地震で、屋内プールの天井タイルが9割方落下、負傷者が出るという事故が発生した。「安全対策まで民間に任せでいいのか」との声が挙がった。
PFI方式が裏目に出た例はまだある。PFI方式で02年にオープンしたスポーツクラブ「タラソ福岡」(福岡市東区)は、SPCの代表企業が04年3月に破たん。新SPCに事業が引き継がれるまで、約4ヶ月にわたって施設の閉鎖を余儀なくされた。PFIに対するそもそもの理解不足や、発注者側が民間業者のリスク処理能力を評価できていなかったことなどが指摘された。
そうは言っても、財政難の自治体にとって、大幅コストカットが期待できるPFIを放棄する、という選択肢は選びにくいのも事実。今後も試行錯誤が続きそうだ。