ゲームソフト開発に携わったコクヨの契約社員が痴漢と傷害の疑いで逮捕された。コクヨは、発売直前だったニンテンドーDS用「ビズ能力DSシリーズ 話心の素」の発売を当面見合わせ、店頭に並んだ製品も回収すると発表した。「過剰反応」という疑問から「これは発売できん」と見合わせを当然視する意見が出ている。
「犯行」がたまたま発売日前日
ゲームソフトの発売見合わせを知らせるコクヨのHP
2007年9月12日朝、コクヨの契約社員(30)=横浜市=がJR東海道線上り電車内で女性(25)の胸を触り、さらに社員の手をつかんだこの女性の顔を殴ったとして、乗客らに取り押さえられた。「現行犯逮捕」として引き継いだ神奈川県警が、傷害と県迷惑行為防止条例違反の疑いで社員を13日に送検した。複数のスポーツ新聞が「ひじが胸に当たりムラムラしてやった、などと容疑を認めている」と報じている。
事務用品大手のコクヨは9月13日、自社ホームページに相次いで「お詫び」を掲載した。まずは「当社社員の逮捕に関してのお詫び」。「ご迷惑とご心配をお掛けし」と謝罪した上で、「詳細が把握できておらず、今後の捜査を見守って行きたい」「厳粛に受け止め、社内のコンプライアンス体制の更なる強化を(略)」とうたっている。また「お詫びとお願い」として、偶然にも13日が発売当日だったゲームソフト「ビズ能力DSシリーズ 話心の素」の発売を「当面の間、見合わせいたします」とも発表した。店頭に並んだものは回収し、買った人がいた場合、返品の希望があれば「別途対応させていただきます」としている。
発売予定のゲームはどのような内容だったのか。コクヨのプレスリリースなどによると、「あなたの話、ほんとうに伝わっていますか?」という副題を掲げ「『話し方』徹底トレーニング」とうたっている。他人とのコミュニケーションに苦手意識のあるビジネス関係者向けだ。1,450問の問題を解き、「話す際の間のとり方」や「様々な状況において、適切な受け答えができる判断力」などを鍛える内容になっている。当初7月26日の発売予定だったが、作業の遅れから「たまたま」発売日が9月13日にずれていた。
9月18日現在、2ちゃんねるには複数のスレッドが立っている。中には、「新製品回収だって。過剰反応じゃないのか」「凍結する意味がよく分からん。(略)なんだか異常な対応に思えるけど」と、発売見合わせに対し否定的な意見も散見される。一方で、ゲームの内容と犯行の内容のギャップを暗に指摘し、発売見合わせを当然視するものも少なくなかった。ゲームの副題「あなたの話、ほんとうに伝わっていますか」を紹介した上で「これは発売できんww」、「ゲームの内容が『話心の素』ときたら、(発売見合わせは)仕方ないだろ」などだ。
賛成も反対も意見は寄せられていない
発売見合わせについて、コクヨに対し意見は寄せられていないのか、とJ-CASTニュースが取材すると、広報担当幹部は「(賛成も反対も)声は上がってきておりません」と答えた。広報幹部によると、逮捕・送検された契約社員は、07年3月から勤務している。8月からは契約更新し、12月まで働く予定だった。ゲームソフト「話心の素」の開発担当の1人だが、責任者ではない。開発グループの人数は公表していない。処分については、まだ詳しい情報を把握できていないとした上で「事実確認をした上で厳しい姿勢で臨む予定だ」と答えた。
また、ソフトの発売中止もあり得るのかという質問に対しては「見合わせる、ということで発表している」と述べるに止まった。コクヨは06年にゲームソフト開発に参入した。同社HPによると、「話心の素」が4作品目になる予定だった。逮捕された契約社員は、ほかのゲーム開発にも関わっていた。ほかに関わっていたゲームソフトの回収はしないのか、という質問に対しては「考えていない」。「話心の素」の発売延期、回収との対応の「差」については、「逮捕が発売直前だったというタイミングを重くみた」と答えた。ゲームソフトの内容は、発売見合わせ措置とは関係ないとした。
コクヨがゲームソフト発売を見合わせるのは、「過剰反応」なのか「スピード感がある決断」なのか「(一部のソフトだけ対応する)中途半端な対応」なのだろうか。
企業の危機対応や法令順守(コンプライアンス)を巡り共著書もある、日本能率協会コンサルティングの才川哲治チーフコンサルタントの考えは以下のようなものだ。一般論として多くの企業は、法律的には問題ないとしても「コンプライアンスがしっかりしていない」という消費者の評判を気にして防御的に、やや過剰に反応する傾向がある。ただ過剰過ぎる反応をすれば営業的にマイナスになる可能性もある。そこで「どこで線を引くか」が問題になり、「手探りで消費者の反応を見極める」ことになる。コクヨの例については、「防御的に」新発売ソフトは発売を見合わせながら、営業的に影響が大きくなる過去の販売分までは踏み込まないという「線引きをした」と分析。「消費者の反応を手探りながら探りたい、という一般論によく沿った対応です。いい悪いは簡単には言えません」