奈良「産科たらい回し」報道 マスコミの異常「医療バッシング」

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   奈良県で、38歳の妊婦が救急車で運ばれたが、受け入れる病院がなかなか見つからず「死産」となった事件で、マスコミはこぞって「たらい回し」「態勢の不備」と批判した。一部では、「通報場所から近い病院に空きベッドがあったのに、受け入れを断っていた」との報道も飛び出し、「医療バッシング」の様相も呈してきている。これを受けて、3度の受け入れ要請があった奈良県立医大病院は、2007年8月31日、経緯を説明する文書を発表した。分単位で当直者2名の行動が記されており、現場の過酷さと受け入れが困難な実態が伝わってくる内容だ。

当直医2名は、1睡もしないまま翌日の業務についた

奈良県立医大病院では、「説明文書」を発表した
奈良県立医大病院では、「説明文書」を発表した

   事件では、8月29日午前2時45分頃、妊娠7ヶ月の女性がスーパーで体調を崩し救急車で搬送されたが、救急隊は12の病院に述べ16回の要請を余儀なくされ、女性は午前5時頃に死産した、というものだ。各病院が受け入れを断ったことに非難が集まった。特に、通報現場から800mしか離れておらず、最初に受け入れ要請があった奈良県立医大付属病院については「空きベッドがあったのに、受け入れを断っていた」などと報じられ、批判が高まっていた。

   こんな状況を受け、同病院では、8月31日になって院長名で「今般の妊婦救急搬送事案について」と題した文章を発表。「誠に遺憾と感じている」としながら、「過酷な勤務状況だった」と現場の状況に理解を求める内容だ。資料は産婦人科の当直医2名の対応を、8月28日19時6分から29日8時半にかけて記したもので、当直日誌記録から書き起こしたものだ。同資料中には、患者Aから患者Fまで、患者6人が登場。これだけでも負担の大きさが伺えるが、患者AからFのうち、1人が出産(患者D)、1人が緊急帝王切開で出産している(患者B)。また別の患者は、破水して緊急入院し産科病棟は満床となったが(患者E)、さらに別の患者について「分娩後に大量出血した患者がいる」との受け入れ要請が開業医から寄せられ、他病棟と交渉して収容、対応に追われてもいる(患者F)。こんな状況下で、産婦人科には救急隊から2度にわたって受け入れ要請があったが、

「お産の診察中で、後にして欲しい」
「今、医師が、急患搬送を希望している他医療機関医師と話しをしているので、後で電話をして欲しい」(事務担当者が応対)

といった理由で断らざるを得なかった、ということのようだ。この当直医2名は、1睡もしないまま、翌日の業務についたという。

   なお、同病院によると、前述2回以外にも「高度救命救急センター」にも1回受け入れ要請があったが、「(本人の)命にかかわる状況ではないので対象外」だとして、受け入れを断っている。

お産をするために「抽選」が必要!!

   事情は他の病院でも同様で、やはり、この女性の受け入れ要請を断った大阪市の千船(ちぶね)病院も、朝日新聞の「アエラ」(07年9月10日号)に対して、

「当日は午前2時から5時にかけて4件の分娩があり、そのうち3件は帝王切開で、待機中の妊婦も2人いました、当直医と応援の産婦人科医の2人でそれに対応していました。産婦人科の常勤医は7人いますが、つねに出勤態勢を取らせるのは心身ともにプレッシャーが大きすぎます」

と、奈良県立医大病院なみに多忙だった様子を明かしている。さらに同誌では、患者側の行動について

「高度な医療が必要な3次救急の病院に、歩いてこられる程度の風邪を引いた程度の患者が来たり、救急車をタクシー代わりに使ったり」

と言及、患者側のモラル低下が医療環境を悪化させ、結果的に自分の首を絞めることになっている現状を示唆している。

   J-CASTニュースが8月31日に配信した記事「なぜ産科医は患者を断るのか 出産費用踏み倒しに『置き去り』」のコメント欄でも、これに通じる傾向の議論が展開されている。

   朝日新聞の神奈川県版では、「赤ちゃん」というタイトルの、お産についての連載を精力的に行い、緊急時で無くてもお産の環境は厳しいことを報じている。07年5月19日には、横須賀市では常勤医が減少した結果、お産を扱わない病院が相次いでいる実態を紹介。また、松田町の病院では、医師が足らなくなった結果、お産をするために「抽選」が必要で、選にもれた妊婦は他の場所でお産場所を探さないといけない、という事態になっているという。

   横須賀市のケースでは、横浜に妊婦が「流入」するケースが相次いでいるといい、その結果、横浜で妊婦が「あふれる」危険性も指摘されている。

   いずれの問題も「産科医がどうすれば増えるか」という処方箋がない限りは、解決への糸口は見えてこない。

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