あの室伏がまさかの6位、末續、醍醐、そして、沢野が次々にけいれんを起こして…。TBSが運営する世界陸上大阪大会で、日本選手の苦戦が続いている。そんな事態に、08年に北京五輪を控えた陸上関係者から、「選手はあまりスター意識に走らないで」と苦言が出た。選手らは、スターの仕事の方が忙しかったのだろうか。
派手な演出したTBSに責任?
2007年8月31日付の各新聞スポーツ面。「世界陸上」のニュースでは、劣勢を反映して日本人選手の記事が片隅に追いやられている。
メダルを期待されていたニッポン男子棒高跳びのエース、沢野大地選手(26)。しかし、2007年8月30日の予選では、全身のけいれんで、3回目パスの後、高さを上げて挑戦した1回目は、バーに触れることもできず、「記録なし」の屈辱的な結果となった。翌日付のスポーツニッポンには、跳躍失敗後に自分の手のひらを見つめる沢野選手の写真が大きく掲載された。
「何でこうなってしまうのか。ホントに申し訳ない」。世界陸上では、男子200メートルの末續慎吾選手が、同走り高跳びの醍醐直幸選手が、けいれんを起こしてともに予選落ちした。それだけに、沢野選手には、悪夢を再現してしまったとの思いがあった。働けど働けど…じっと手を見る――そんな啄木のような心境なら、あきらめもつくはずだが…。
メダルを期待された選手が、次々に敗退していくのはなぜか。そんな国民の疑問に答えたかのように、日本オリンピック委員会(JOC)の福田富昭選手強化本部長が8月30日、記者団を前に苦言を呈した。いわく、
「選手はあまりスター意識に走らないで、初心に立ち返って体力をつけてほしい」
近づく北京五輪を前に、焦燥感に駆られての発言とみられる。選手がなぜスター意識を持ったかは説明がなかったが、テレビやCMへの出演でちやほやされて…と考えるのが常識だろう。
確かに、TBSは、選手をメディアで露出させる機会を増やしていた。日本陸上競技連盟が主催したイベント「キッズアスリート・プロジェクト 夢の陸上キャラバン隊」では、選手らが06年11月から全国各地の小学校に出向き、デモンストレーションや子供たちへのレッスンなどを行った。子供たちと触れ合う様子は、テレビやCMでも紹介され、CMでは、室伏選手が「ニッポンの黄金超人」、末續選手が「ニッポンのカリスマ」と持ち上げられた。
また、TBSでは、選手を招いて女優の秋吉久美子さんとトークする番組「We Loveアスリート」が放映され、そこで秋吉さんが撮った末續選手らの写真がポスターにされた。さらに、室伏、末續選手らが武士に扮した甲冑姿で登場するCM「大阪夏の陣編」も繰り返し放送された。