2007年末に初めての法科大学院卒業生が1年間の司法修習を終えるが、修習生が前年の倍近く増えたため、まだ100人ほどの就職が決まっていない。そこで、日弁連では、各法律事務所に対し、軒先を貸すだけから「ノキ弁」と呼ばれる「独立採算弁護士」の新採用形態をPRしている。給料をもらいながら勉強する従来の「イソ弁」とは違い、独力で仕事を取りながら勉強しなければならない。
このような勤務形態導入の結果、競争が促進されて、弁護士費用が軽減されると期待する声がある。しかし、一方で、待遇悪化による弁護活動の質の低下を懸念する声も上がっている。
07年は100人ほどが就職できず、就職活動中
就職難の時代に合わせ、弁護士向けの転職サイトも現れた
司法修習の終わりまで半年を切れば、例年ならほとんどの修習生が就職先を決めていた。しかし、07年は、旧司法試験の合格者を含め、修習生が約2500人と、前年よりも約1000人も増えた一方、法律事務所などの求人数が求職数を大幅に下回った。その結果、まだ100人ほどが就職活動を続けているのだ。こうした事態に、ネット上では、「もっと、裁判官や検察官の定員を増やすべきだ」「独立、開業することを考えるべきだ」といった反応が出ている。
政府が法科大学院導入を決めた6年前は、将来の弁護士需要増を見込んでいた。それは、企業や官庁が国際化などに対応しようとして弁護士の数を増やすだろう、という読みからだ。ところが、07年に入って、日弁連が1月に行ったアンケートで、企業や官庁の求人は、5年間トータルでも最大200人余に過ぎないことが分かった。また、求人がある地方では、募集をかけても希望者が集まりにくい状況だという。
こうした事態が知れ渡り、ミクシィでは、弁護士などの間で司法修習生の失業が話題になり始めた。ある弁護士は07年1月、弁護士会のグループから今後を予言するファックスが送られてきたことを日記で明かした。
「タイトルが『大量の失業弁護士発生は必至!』というので読んでみたら、2007年は新規登録弁護士が推定で2160人に対して求人数が1700人。2008年以降は、平均966人の採用予定しかない。
つまり、2007年で460人、2008年以降で、平均1164人の失業弁護士が出るそうです」
というのだ。また、ある地方の弁護士は6月、自らのブログ「町弁(まちべん)のひとりごと」で、次のように漏らした。
「昨今の修習生の活動を見ていると,ずいぶん,一般の就職活動に近くなってきているんだなあ,という印象を受けます。修習生が突然電話をしても会ってくれず,まず書類選考でふるい落とされたり,どの事務所も面接すらしてくれないので,修習生の方から手当たり次第メールで面接の希望を伝えたり,何十カ所という事務所を訪問している修習生も珍しくはないようです。筆者の事務所に来たロースクール出身者も,毎週事務所訪問の予定でぎっしりになっていました」
「ノキ弁」はかなりの部分が歩合給の世界
日弁連では、07年初めごろは、最悪500人が就職できないと予想していた。そこで、2月に、1人事務所を中心にパンフレットを配布して、「事務所内独立採算弁護士」の情報を提供していた。その結果、現在では年初時点から見れば、状況はかなり改善されたという。日弁連の弁護士業務総合推進センターの秋山清人副本部長は、J-CASTニュースの取材に対し、「各事務所では毎月固定給を支払うのはつらいが、独立採算弁護士ならいいという声がある。司法修習生は、いきなり一人で事務所を始めるのは不安があり、経験を積みたいという希望が生かせる」とその意義を強調する。
独立採算弁護士、通称「ノキ弁」は、事務所で机、パソコンなどをあてがわれるが、かなりの部分が歩合給の世界だ。先輩弁護士の事務所に居候し、給料をもらいながら勉強する従来の「イソ弁」とは性格が異なる。「ノキ弁」になったら、独力で仕事を取りながら勉強しなければならない。
そして、予想されるのが弁護士の競争激化だ。これに対し、ミクシィの日記には、それがもたらす結果について、楽観と悲観の両方の見方が出ている。弁護士費用が安くなる効果、夜間・休日サービスの充実、敗訴の場合の費用一部返還などの実現を期待する声の一方で、「『貧すれば鈍す』というように、これからは悪徳弁護士がたくさん出てくる」との指摘があるのだ。
07年は、日弁連の呼びかけに応じ、前倒しで採用した事務所が多く、翌年以降の就職活動はさらに厳しくなるとみられている。弁護士白書によると、06年で2万2000人だった弁護士数は、10年後には、倍以上の4万7000人に。さらに、30年後には、4倍以上の9万5000人を越えると予想され、供給過剰が心配されている。
「ノキ弁」の問題に詳しい兵庫・芦屋西宮市民法律事務所の津久井進弁護士は「弁護士の増加でサービス向上が期待できる半面、その弊害を心配する司法関係者は多い。すべての弁護士がそうではないが、いずれ格差社会の敗者のようなケースも出てくると思います」と話している。