映像コンテンツは、違法なものを含めて、テレビよりもインターネット検索で楽しむ傾向が加速している。2007年6月に発表された「インターネット白書2007」では、ネットの利用でテレビを見るのが減ったという人が、4割近くにも上った。「通信」が「放送」を飲み込む形で融合が始まったのだろうか。
雑誌、新聞より減少率が大きくメディア最大
テレビ番組の違法な投稿も絶えないユーチューブの動画サイト
「調査していないので感触だけですが、人々は、ネットを始め多様なメディアから情報を得られるようになって、以前のようにテレビに依存しなくなったと思います」
「インターネット白書」編集長の錦戸陽子さんは、このように分析する。白書は、総務省など所管の財団法人インターネット協会監修の下で、IT関連の出版物を手がけるインプレスR&Dが1996年から毎年、ネットユーザーに調査してまとめている。
それによると、ネットの利用でテレビの視聴時間が減ったと答えた人は、36.9%。次いで、雑誌が29.1%、新聞が24.3%。テレビは、結果として、メディアの中で最も減少率が大きかった。
なぜ人々は、テレビよりネットに引き付けられるのだろうか。妻子持ちの30歳代の地方公務員さかもとともかつさんは、自らのブログ「T's Diary」で、「わたしにとって、『パソコンテレビGyaO[ギャオ]』はいい感じです」と打ち明ける。ギャオとは、IT企業のUSENが運営している動画サイトで、オリジナル動画のほか、海外ドラマ、アニメ、映画などを無料で提供している。
さかもとさんは、「いい感じ」の理由として、「数多くの番組がキーワード検索によって探せる」「視聴期限までの間であれば、好きなときに視聴できる」などを挙げる。これらの特徴は、映像をいつでも検索して見ることができるというネット動画の"オンデマンド"性だ。
動画サイトの魅力について、さかもとさんはさらに続ける。
「アニメ番組も昭和時代の懐かしいものから、平成時代の新しいものまで、幅広いジャンルのものが登録されていて、気になるものを見ていると夜遅くになってしまいそうな感じ」
さかもとさんのような動画への関心は、ネット白書にも表れている。動画サイトの認知度は72.8%に上り、約2割近くが閲覧を中心に利用しているのだ。この数字は、テレビの視聴時間が減った人の割合に近い。とりわけ、テレビ番組の違法な投稿が問題になっているユーチューブは、動画サイト利用者の実に93.3%を占めており、前年の白書での数字に比べ5.3倍にも膨れ上がった。
8割以上が「テレビはネットで検索して見たい」
テレビ局は、このようなネットユーザーの動向に、どのくらい危機意識があるのだろうか。NHKの広報担当者は、J-CASTニュースの取材に対し、「う~ん、危機感ですか。様々な形でメディアが増えてくれば、様々な楽しみ方に分かれてくるのは時代の流れ。今申し上げられるのは、災害報道とかやらなければならないものをしっかりやり、その上で、視聴者の皆様に見てもらえるような番組作りに励みたいということです」。
一方、民放のフジテレビ広報部の担当者は、「総世帯視聴率が下がっているので、危惧しています。ユーチューブに載っている番組は、全部違法。要請して削除してもらっていますが、それでも投稿する人はいる」と話す。
ネット動画利用者が増えた背景には、動画が見やすい光、ADSLなどのブロードバンドが大幅に普及したことがある。ネット白書によると、日本の全世帯のうちの普及率は、50.9%に達した。ブロードバンド普及の当初は、電話、FAXの利用が減ったが、次第にマスメディアの利用を減らす人が増えてきたという。
ネット白書編集長の錦戸さんは、「利用目的別の調査では、ニュースとエンターテインメントの分野は、テレビの利用率が高い。ところが、ネットは、商品購入、生活情報を含め、全般的にどれも利用率が高いんです。新聞、雑誌は、どの分野も評価が低いですね」。
ところで、ネット白書が2006年、放送・通信の意識調査を行ったときの結果は、テレビ関係者には衝撃的だっただろう。テレビへの満足度は5割に過ぎず、ネットと融合してほしいとした7割近くのうち、「テレビの映像コンテンツをネットで検索できるようになってほしい」とする人が8割以上も占めたからだ。
もっとも、ネット動画では、画質の低さなどがまだ普及のネックとなっている。錦戸さんは、「放送をブロードバンドで視聴するIPTVサービスの利用者は、まだ2%程度。今は、ユーチューブやギャオのような動画メディアが主流になっています。テレビがネットに飲み込まれるかどうかを言うのは、まだ難しい状況ですね」と話している。