「日経ビジネス」に掲載された特集記事「孤独な最大手、ヤマダ電機の猛進」を巡り、家電最大手のヤマダ電機がホームページ上で「ネガティブキャンペーンだ」とかみついたことが波紋を呼んでいる。同社は2007年1月、職安法違反疑惑を連載記事で報じた読売新聞に対しても、連載中に強硬に抗議していた経緯があるからだ。
「強引とも言える取引手法」と指弾
問題の記事が掲載された「日経ビジネス」07年8月6-13日号
今回問題の記事は、「日経ビジネス」07年8月6-13日合併号に「家電量販の『品格』」という大見出しで14ページにわたって掲載された。
記事では、3人の記者からなる取材チームが、ヤマダ電機の商法の舞台裏について次々に切り込んでいく。同社が06年秋から、消費者から受け取った故障品の修理費用の3割以下をメーカー側に支払わなくなったこと。本社と店舗とのテレビ会議で、売り上げの伸びない店舗の店長を役員が口汚く恫喝し、日常的にも、店舗設置のカメラで従業員がサボっていないか監視していること、などなどだ。そして、ヤマダ電機の商法を、公正取引委員会もメスを入れた「強引とも言える取引手法」と指弾している。
記事の最後は「他社の模範になりながら規模と利益の拡大を図ることができるのか」という表現で締めくくっている。記者らの取材には、ヤマダ電機の一宮浩二副社長ら役員2人が応じ、記事のあちこちに、役員のコメントがちりばめられている。
ところが、ヤマダ電機の反応は、かたくなだ。同社のホームページに8月4日付けで掲載された顧客、株主あてのインフォメーションには、「日経ビジネスの記事について」と題して、次のようなコメントが載せられているのだ。
「弊社は、平成19年7月26日に、本記事のための日経BP社の取材を受けておりましたが、本記事には取材を受けていない内容が記述されており、かつその記述部分には一部事実でない記述が織り混ぜられていることから、本記事は、はじめから取材内容とは無関係に弊社に対するネガティブキャンペーンの記事として掲載するつもりであったとしか考えられません」
そして、次のようにも断言する。
「こうした日経BP社の報道姿勢は、『事実を正しく伝える』という本来の報道機関の役割・在り方を明らかに逸脱したものと考えます」
ヤマダ電機の担当者は8月3日、日経BP社を訪れ、記事の内容・報道姿勢について厳重に抗議したという。今後は、顧問弁護士と相談したうえで、訴訟等の法的な対応を取ることも検討するとしている。
「ネガティブキャンペーン」とまでいう意図は何なのか?
ヤマダ電機は、読売新聞が「ヤマダ電機に職安法違反の疑い」としてヤマダ電機を追及する連載を始めたときも、記事に注文を付けたインフォメーションをホームページに掲載していた。A4判3枚相当がびっしり書かれており、記事を「一方的かつ断片的な情報に基づいたもの」と断定している。
これに対し、「週刊文春」は、3月15日号で「読売新聞が突如『ヤマダ電機追及キャンペーン』をやめたワケ」と題して、次のような読売関係者のコメントを載せている。
「折り込み広告を入れていますが、これが膨大な金額(中略)。老川大阪本社社長は、社内で、『東京が言ってるから仕方ないだろう』と話していた」。
この記事に対して、読売新聞は「事実でない」として文春に抗議している。
今回のヤマダ電機の抗議は、日経BP社にまで足を運ぶほどの強硬なものだ。特に、インフォメーションにある「ネガティブキャンペーン」という表現は、かなり刺激的だ。
日経ビジネスの記事を読むと、ヤマダ電機があらゆる機会にあらゆる手段を使って、強引に業容拡大を進めてきたことが詳細に書かれている。
例えば、同社が7月13日、大型店の「LABI池袋」をオープンさせ、都心部に初出店したときの舞台裏のことだ。大型店を出店させる場合には、建築基準法などによって、一定数の駐車場を敷地内に設けなければならない。しかし、ヤマダ電機は、住民や警察署の要請からこれが難しくなったとして、シャトルバスを使って300メートル以上も離れた駐車場へ客を送り迎えする方法を導入する。
ただ、記事はシャトルバスについて、「平日昼間の車内はガラガラ」として、駐車場が事実上、機能していないことを示唆している。そして、ある小売業者の指摘を通して、こんな疑問を投げかける。
「行政による出店規制は事実上、骨抜きになるのではないか」
もっとも、ヤマダ電機の一宮副社長は記事の中で「行政から建物の中じゃなくて外に作ってくださいと言われた」と弁解している。J-CASTニュースは、この点を含めて同社がインフォメーションで言う「一部事実でない記述」とは具体的にどの部分で、本当の事実とは何なのか。そして、「ネガティブキャンペーン」のような表現まで使って執拗に抗議した意図は何なのか、同社の求めに応じてFAXを送って取材しようとした。
これに対し、ヤマダ電機では、電話してきた経営企画室の担当者が、
「それ(顧客、株主あてのメッセージ)以上、お答えすることはありません。あれ以上のコメントはできない」
と繰り返すのみだった。