60年間続いたテレビのアナログ放送が4年後の2011年7月24日に終わって地上デジタル放送に全面移行する。現時点でデジタル放送を受信できる受信機の普及は2割台、とそれほど進んでいない。家電メーカーも格安のチューナー開発には及び腰だ。これで、はたして全面移行できるのだろうか。
格安のチューナー開発に家電メーカー及び腰
地上デジタルへの全面移行はできるのか(写真はイメージ)
日本全国にあるテレビ受像機は約1億台といわれている。地上デジタルが見られるテレビ機器は薄型テレビを筆頭に急ピッチで普及しているが、子供部屋や個室など家庭内のテレビ全てを置き換えるまでには至っていない。
JEITA(電子情報技術産業協会)の今年初めの予測では、2011年までに普及するデジタルテレビは6,115万台、4,000万台近くのアナログテレビが残る。総務省が5月にまとめたデジタルテレビの普及世帯率は27%にとどまっている。
総務省はデジタル放送へ完全移行する具体的な手順を08年夏までに策定する方針だ。アナログ放送の終了方法については、トラブルを最小限に抑えるためモデル地域で先行させる。デジタル受信機やケーブルテレビの普及率が高い地域が有力となっている。
受信機については、現在のアナログテレビに接続してデジタル放送が見られるチューナーを1台5,000円程度(現在は20,000円程度)で開発して普及させる方針。経済的な理由で受信機の購入が難しい生活保護世帯などには、このチューナーの無料配布を検討している。
格安のチューナー開発について家電メーカーは「いくらで製品を開発・販売するかは、こちらの判断になる」と及び腰だ。各メーカーとも利益率のいい高画質の映像が見られる薄型テレビの販売に力を入れている。
「延期なんて口が裂けてもいえない」
また、デジタルテレビの急速な買い替えが進めば1億台あるアナログテレビの廃棄が問題になる。「所管は経産省になる」(総務省)、「廃棄は総務省と環境省でやるのが筋」(経産省)というように役所のほうも及び腰になっている。
日本より早く地上デジタル放送の完全移行をめざしていた米国や韓国は受信機の普及が政府の思惑通り伸びずに延期した。しかし、日本では「延期」といおう言葉はタブーになっている。民放キー局幹部は「計画通り進めるだけ。延期なんて口が裂けてもいえない」と語る。
デジタルテレビの普及は月に100万台という現在の増加ペースのままでは2011年7月時点では7,000~8,000万台にとどまるのは自明の理。日本ではデジタル化が「国策」となったため、「2011年7月のデジタル完全移行」というタテマエ論が先行している。
3,000から4,000万台のアナログテレビが残る状態でのデジタル完全移行はあり得ない。視聴者も拙速な移行を望んでいない。そろそろ「普及がどの程度になったら完全移行する」というホンネの議論をすべきではないのか。