ホンダが2008年秋に予定していた高級車ブランド「アキュラ」の国内展開を延期した。国内市場の動向を見据えて3系列あったホンダブランドの販売網「ホンダカーズ」を一本化し、その定着を優先させたからだ。だが、アキュラ店開業でホンダが苦手としていた高級車販売を活性化できると期待していたホンダ販売会社経営者の士気に、アキュラ先送りは深刻な影響を及ぼしている。苦手克服どころか、ホンダ本社の国内市場政策に重大な疑念さえ生じさせたのだ。
国内販売を2年ほど先送り、2010年以降に
ホンダは高級車ブランド「アキュラ」の国内展開を延期(写真は米国モデル)
アキュラは国内自動車メーカーが展開するプレミアムブランドの先駆けとしてホンダが1986年に創設した。最上級セダン「RL(日本名=レジェンド)」や最上級SUV「MDX」などを扱うブランドで、米国を中心に展開している。2004年以降は米国での年間販売数が約20万台に達するまでに成長した。
その取り組みは国内メーカー他社にも影響を与え、米国でのアキュラ開業後にトヨタ自動車が「レクサス」、日産自動車が「インフィニティ」を展開した。
ホンダはアキュラブランドを2008年に国内に導入する計画を立て、2007年秋には販売体制が決まる予定だった。だが、このほど国内導入を2年ほど先送りして2010年以降にすることを決めた。
導入先送りの要因は国内市場の低迷だ。2011年までに予定しているアキュラブランドの車種群では、アキュラ国内販売計画が未達になると予測されたのだ。しかも、国内のホンダブランドからアキュラブランドになる車種を引き抜いてしまうと、「ホンダカーズ」の扱い車種に高収益車種が不在となってしまう。それではホンダブランドそのものが立ち行かなくなると判断した。
トヨタ・レクサスの初期の不調も大きく影響
トヨタ自動車のレクサスの実績もこの判断の参考材料だった。
2005年8月に国内導入されたレクサスは、最量販車種となるはずのミドルサイズのセダン「IS」や「GS」の販売が不調で、2006年に旗艦車種の高級セダン「LS460」を発売するまでの間、販売実績は目標の半分で推移した。
ホンダのアキュラは、レクサスとは異なりスポーティー車や個性的な車両を揃えたブランドなのだが、レクサスで不調の2車種はアキュラブランドのラインアップに通じるものがある。このため、トヨタのレクサス国内導入を失敗と考えたホンダは、アキュラ導入に慎重になったのだ。
アキュラ導入の延期の知らせを受けて、ホンダの国内販売店は肩を落としている。
これまでホンダブランドの販売店はふたつの店舗が隣り合っていても、チャンネルが異なることで成り立っていた。それが3チャンネル統合により、どちらかが移転したり廃止したりとなった。アキュラブランドの販売店舗に切り替えることを前提に閉店した店舗もある。
「ホンダは国内市場を見限った」と見る販売店も
レクサス店を持つトヨタの販売会社の間では、2007年3月期決算でのトヨタ車販売減による赤字転落の危機を、レクサスの販売がカバーしたという話が広まった。
ホンダの販売会社の経営者からみればうらやましい限りだ。国内の新車市場が縮小していく中で、ホンダの販売会社経営者が抱くプレミアムブランド・アキュラへの期待は高くなった。経営者はアキュラ店の開業による経営の安定化を目論んでいた。アキュラ店のスタッフになることを切望する従業員もいた。
ところが、である。プレミアムブランドの創設という点では先陣を切ったホンダなのに、その国内導入に関してはライバル・トヨタに5年以上の遅れをとる事態になってしまった。しかも国内新車市場そのものが成長する可能性が低いため、アキュラの「延期」は、そのまま「中止」に変わる恐れさえあるのだ。
ホンダの国内販売会社は3チャンネルの一本化を国内販売体制の規模縮小と捉えている。そこにアキュラの延期が加わったことで、販売店経営者の中からは「ホンダが国内市場を見限った」との憶測さえ出始めている。