記者はテレビを見て記事を書く!! 自民党本部に詰めていながら

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   参院選当日の自民党本部の会見場は報道陣ですし詰め状態だった。安倍晋三首相が会見場に近づくと、フラッシュの閃光が一斉に走る。テレビカメラとスチールカメラは安倍首相を捉えている。ただ不思議なことに、ペン記者は会見場ではなく、テレビが置いてある隣りの部屋に一斉になだれ込んだ。テレビの前にはボイスレコーダーが置いてある。もはや、ペン記者は党本部にいる意味は無い。なぜなら、すべてはブラウン管のなかにあり、そこから「取材」しているからだ。

記者会見場は狭く、カメラマンだけでいっぱい

沈痛な面持ちで党本部会見場に入る安倍首相
沈痛な面持ちで党本部会見場に入る安倍首相

   2007年7月29日の参院選当日。自民党幹部が開票を見守る会見場は、記者クラブの中にあった。記者クラブ加盟社は午後1時に党本部に入ることができるが、加盟社でない各社が党本部に入れるのは午後5時だ。

   午後5時に自民党本部に入るとすでに会見場はテレビカメラで埋め尽くされていた。会見場はわずかな広さしかなく、会見場の後方にわずかな隙間の通路がある。ここは、テレビカメラのコードで覆われている。この通路は、カメラが置いてある持ち場やアナウンサーを使ったレポートの撮影場所、あるいは記者クラブの設置してあるスペースに行くために使われる。会見場はテレビカメラとスチールカメラだけのためにあるようなものだ。

   多くの記者は自民党本部に居場所はない。開票が始まるまでまだ3時間あまり。党本部近くのカフェは記者やカメラマンの溜り場と化し、「(党本部のなかで)動けないよ」「うろうろしてさ」といった愚痴がちらほら聞こえる。

   午後6時半を過ぎると党本部の報道陣の数も増えてきた。各局の有力アナウンサーも姿を現し始め、自民党の議員が到着するたびに、党本部入り口のカメラマンがしきりにカメラを構え始める。午後8時近くになると会見場隣にあるテレビが2台置いてある控え室に人が集まり始まる。各局で選挙特番が始まるからだ。

   テレビ画面に映し出されていたのはフジテレビとNHK。ペン記者は一斉に、出口調査による議席予測をメモしていた。さらに、8時過ぎの日本テレビで、岡山選挙区での自民党現職の片山虎之助・参院幹事長(71)が「不利」、と報道されると、控え室にいる記者からは「おぉー」という驚きの声が上がった。

   9時すぎになると自民党幹部が次々に会見場に姿を現し始めた。しかし、記者たちはスチールカメラとテレビカメラに埋め尽くされた会見場に進入するのは事実上不可能だ。で、隣の部屋に置いてあるテレビの前に集まる。

「(会見場で党幹部の声が)ほとんど聞こえないな」

   「(テレビの)クエスチョンが分からない」といった声が聞こえ始める。

控え室にあるテレビの前にボイスレコーダーが置いてある

   自民党幹部が各局の中継でインタビューを受けていても、会場にいると番組のキャスターのどのような質問に答えているのかわからない。そもそも党幹部の発言さえも現場にいる記者にはほとんど聞こえないのである。そこで、頼りは控え室にあるテレビというわけだ。その前では記者たちが党幹部の発言を熱心にメモ書きしている。そして、テレビの前には「ぶらさがり」でもするように、ボイスレコーダーが置いてあるのである。なぜ彼らがここにいなくてはいけないのかはよくわからないのだ。

   9時半を過ぎると会見場では今更ながら「当選確実」のバラ付けが行われ始め、拍手が起こった。しかし、党幹部は相変わらず沈痛な面持ちで座っている。

「民主党はいまごろ(みんな)笑ってるんだろうな」
「虎(片山虎之助参院幹事長)やばいよ」

   しかし、このあたりから党本部は物々しい雰囲気になりはじめる。安倍首相が官邸を出たとの情報が入ったからだ。会見場の人口密度は最高潮になり、熱気がムンムンと漂う。首相を待ち受けるSPの首筋にも汗が光り、イヤホンについた汗をふき取る者もいる。記者は入り口で総理を待ちうけ、その複雑な表情を捉えると、また、テレビの置いてある控え室に駆け込んだ。安倍首相の発言をメモ書きするためだ。もちろんテレビの前にはボイスレコーダーが用意されている。
   もっとも、大勢判明後の30日未明には、記者席が用意されている別の場所で幹事長の記者会見が行われるのだが。

   安倍首相が到着した直後の会見場では、数少ない当選者のバラ付けが行われ、拍手に包まれた。歴史的な「大敗」を紛らわすかのように。

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