新潟県中越沖地震の影響を受けて、柏崎刈羽原発の安全性が議論を呼ぶ中で、ほかの原発についても、「想定外」の大地震の際にどうなるのか関心が高まっている。「浜岡原発事故で東京周辺の200万人が死亡する」というセンセーショナルなシミュレーションもテレビ番組で紹介された。どこまで本当なのか。
がんや白血病によるスローな死
「200万人死亡説」を紹介したJ-CASTテレビウォッチ
「200万人死亡説」は2007年7月17日、テレビ朝日系ワイドショー「スーパーモーニング」で紹介された。静岡県の中部電力浜岡原発で放射能が大量に漏れた場合について、京都大学原子炉実験所の小出裕章助教(57)が電話取材に答えた。小出さんのシミュレーションによると、「東京の人たちにとって被害が最も多く出る想定で、200万人が死亡する結果になった」と話した。
「急性に死ぬというのではなく、被ばくした結果、いずれがんや白血病で死亡する」とも付け加えた。マグニチュード8クラスの地震が起きた場合について、中部電力は「自動停止になるので、安全上重要な施設については影響を及ぼすものではないと考えている」と回答を寄せたという。
7月17日の「J-CASTテレビウォッチ」で番組の内容を伝えたところ、コメント欄には疑問や反論の声も寄せられた。
「(中越沖地震の)被災者にも失礼なんじゃないですか?結果として不安を煽ってるようです」
「信憑性についての報道側の確認が不足している」
「どういう根拠なんだか」
などだ。
J-CASTニュースが小出さんに「200万人説」の根拠を聞いた。小出さんによると、シミュレーションしたのは数年前だ。米原子力規制委員会(NRC)の被害想定に基づき、「最悪の事態」、地震で原発施設に大爆発が起き、放射能が大量に放出されるというケースを日本に当てはめた。
気象条件と風速は「普通」に設定、風向きを東京方面と想定した。地震で交通網が寸断され、短期間に住民が逃げ出すのは困難という前提も付けた。すると東京を中心に東海方面から首都圏にかけ、計200万人が、がんや白血病で将来的に死亡する影響を受けるという結果が出た。「即死」は原発周辺の一部に止まる。使用したコンピュータープログラムは、故人の元同僚、瀬尾健さんが作成したものを約10年前に引き継いだ。死亡という「結果」は、何年以内に起きるのか、という質問には「様々なケースがあり、はっきりとは言えない」とした。
こうした「最悪の事態」は、起こる可能性はあるのだろうか。NPO法人「原子力資料情報室」の共同代表の1人、山口幸夫さんは「可能性は高いとは言わないが、ある」と答えた。その上で、政府が放射能もれによる死者を含む被害想定をまとめていない、として「事故は起きないという前提で、国民の不安を増幅したくないからまとめないのだ」と国を批判した。「大事故が起きてほしくないから起こらないと信じたい、という人も少なくないでしょう」とも分析した。
「確定的なことはだれも言えない」
国は本当に「死者」想定をまとめていないのだろうか。ちなみに、地震に限れば、内閣府が主な発生場所や時間などに応じて、死者の数のシミュレーションも公開している。J-CASTニュースが、経済産業省の原子力安全・保安院に取材すると、原子力防災課は「原発事故に関連した被ばく・死者数の被害シミュレーションはない」と答えた。理由は「国民に不安を与えたくないから」なのか、と質問すると「違う」と即答した。担当者によると、放射能がある程度もれるという事態も、防災対策としては想定している。もれる可能性を早く察知し、いかに被害者が出ないよう避難を的確に誘導するか、の準備を自治体と協力しながら進めている。被害者を出さない前提で「最善を尽くすために改善を重ねている段階」だそうだ。
結局「200万人死亡説」はどう受け止めればいいのだろうか。「200万人説」が紹介された7月17日の「スーパーモーニング」に出演していた宮崎美子さんは、「大丈夫という専門家もいるし、どっちをどう信じて生きていけば・・・」と不安をもらしていた。
旧ソ連のチェルノブイリ原発事故など原発取材経験が長い、ある科学ジャーナリストは「被ばくした人の死亡率について、小出さんはかなり高い学説を使っているようだ」と分析した。様々な学説があり、死者数という点では「だれも確定的なことは言えない」のだそうだ。