出版社と自費出版契約を結んだ著者4人が、虚偽の説明を受けて出版費用を騙し取られたとして、この出版社を提訴した。この出版社は、「出版された書籍は全国各地の書店で販売される」などとうたった広告を出していたが、全国でたった数十冊だけしか店頭におかれていない、などと原告側は主張。「夢を奪われた」と訴えている。この件に限らず、以前からネット上では「自費出版」ビジネスに不満が噴出していた。
「全国の書店の店頭で販売されると信じ込ませた」
新風舎はHPで「誤解に基づく批判や中傷を浴びせられている」としている
自費出版の大手・新風舎と自著の出版契約を同社と結んでいた4人は2007年7月4日、虚偽の説明を受けて出版費用を騙し取られたとして、新風舎を相手取り、合計約763万円の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に起こした。
訴状によれば、広告で「出版された書籍は、全国各地の書店で販売する体制を整えている」などと表現し、出版契約すれば全国の書店の店頭で販売されると信じ込ませた上、1冊も店頭に陳列されない可能性があるにもかかわらず、故意にこうした事実を告げず、「書籍が書店の店頭に陳列される」と誤信させた、としている。
実際、500部(50部は著者分)出版した原告の場合は、出版の約2ヵ月後時点で、12店舗に28冊しか陳列されず、800部(100部は著者分)出版した別の原告の場合は、出版の約1ヵ月後時点で10店舗に44冊しか陳列されていなかった。さらに、書籍は新風舎の直営店に陳列されるだけで、広告掲載のほかは、書店に一方的に紹介文・ファックスを送り続けるだけの営業活動しかしていなかった、と指摘している。
原告の一部が参加している「新風舎商法を考える会」の世話人・尾崎浩一さんはJ-CASTニュースの取材に対し、
「原告側の損害賠償の金額はそれほど大きなものではなく、お金の回収が目的ではない。『(書店に本が並ぶという)自分たちの夢が奪われた』という思いがあって、こういう商法が許せないということになった」
と今回の訴訟の背景について説明する。尾崎さんによれば、同社の商法の「悪質さ」について4年ほど前から認識していたが、06年3月に新風舎と同業の碧天舎が破産した頃から、インターネット上のブログなどで「被害」について告白する人が増え始めたという。
実際、ネット上では、新風舎の商法を批判するブログが多数あり、「新風舎商法を考える会」のホームページでも新風舎とのやりとりを「暴露」する文章が並んでいるほか、市民記者のニュースサイトでも10本以上の「糾弾記事」が掲載されている。
「著者に対しては、つねに敬意を払ってきました」
また、「Yahoo!知恵袋」や「OKwave」といったQ&Aサイトでも、新風舎のビジネスやコンテストについて疑問を呈する質問が少なくない。さらに、広告を掲載している大手新聞が同社の肯定的な記事しか書かないとして、新聞社への批判の書き込みまでも散見される。
尾崎さんは「1~2万冊が新風舎から出版されたが、このなかの多くが『潜在的な被害者』として、悔しい思いをされているのではないか」と推測する。
新風舎は今回の訴訟について、J-CASTニュースの取材に対して書面で次のように回答している。
「小社への提訴に関する報道がなされましたが、現時点では訴状が届いておりませんので、コメントすることができません。小社は『表現する人の出版社』として、大事なのは著者とのコミュニケーションだと考えてきました。長期にわたる協力関係を通して、本を読者に広めていくことを命題としていますので、これを機に、著者との良好な関係が絶たれてしまうとすれば大変悲しく残念に思います。これまで掲げてきました『表現者第一主義』を基本とするのはもちろんのこと、著者とのコミュニケーションをさらに深め、『本を売り続ける』より一層の努力をしていきたいと思います。著者に対しては、つねに敬意を払ってきましたし、そのことはこれからも変わりありません」