日経新聞に「辞職勧告」された 「しょうがない」発言の久間防衛相

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   広島・長崎への米国による原爆投下について、久間章生防衛相が「しょうがないなと思っている」と発言した。野党は一斉に反発し久間防衛相の罷免を求める考えを示したが、安倍晋三首相は応じず、かばう姿勢を示している。しかし、新聞各紙の論調は厳しく、特に日経新聞は暗に辞職を求める社説を掲載した。安倍首相は参院選を前にまたまた苦しい局面に立たされた。

   久間防衛相の発言は2007年6月30日、千葉県内の大学であった講演会の中で出た。長崎に原爆が落とされ「本当に無数の人が悲惨な目にあったが」と断りながら「あれで戦争が終わったという頭の整理で、しょうがないなと思っている」と述べた。批判を受け、7月1日には長崎県内の会見で、「大変申し訳なかったという気持ちだ。これから先は一切、そういうことはしない」と「しょうがない」発言を事実上撤回した。新聞各紙の報道を見る限りでは自身の進退問題には触れていない。

「自ら進退を判断するのが作法ではないか」

社説などで久間防衛相発言を論じた7月2日の朝刊各紙
社説などで久間防衛相発言を論じた7月2日の朝刊各紙

   安倍首相は久間防衛相の発言について、同6月30日の会見で「米国のそのときの考え方を紹介すると同時に、原爆の惨禍の中にあった長崎について、自分としては忸怩たるものがある、という考え方も披瀝(ひれき)されたと聞いている」と問題視しない姿勢を示した。また、7月1日にあった、経済人らでつくる「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)が主催した小沢一郎・民主党代表との党首討論でも久間氏を擁護する姿勢を見せた。久間氏が被爆地の長崎県民であることに触れ「防衛相として核廃絶に大いに力を発揮して頂かなければならない」と野党からの罷免要求を受け入れる考えがないことを強調した。

   7月2日の朝刊社説で久間氏に「辞職」を暗に迫ったのは日経新聞だ。「またも立場忘れた久間発言」との見出しで、「今回の件でも安倍晋三首相は擁護の姿勢を示しているが、久間氏が自ら進退を判断するのが政治家の作法ではないだろうか」と厳しい姿勢を示している。久間氏が過去にも、イラク戦争を巡り「ブッシュ米大統領の判断が間違っていた」と発言し、官邸側から注意を受けたことも指摘している。また米軍普天間基地の名護市への移設をめぐり久間氏が「(米国は)あまり偉そうなことを言ってくれるな」と語り、米国側が不快感を日本側へ非公式に伝えてきたことにも触れている。「過去の学習効果がなかったようであり、閣僚としての適格性に疑問符がつく」「既に何枚かのイエローカードが出ている」とも論じている。

   「進退」を迫る論拠として、「釈明を迫られる発言を繰り返す久間氏に自衛隊という実力組織を束ねる信頼感を期待できるだろうか」「仮に自衛隊内部に防衛相の言動を軽んじる空気が強まれば、政治家による軍事組織の統制という文民統制(シビリアンコントロール)の観点からも問題となる」とする危機感を挙げている。

「米国政府のご機嫌を取ったわけではあるまいが」

   毎日新聞の同7月2日朝刊社説は「本来なら進退を問われる発言だ」とし、「首相自らが発言の真意をただし、厳しく叱責すべきである」と論じた。見出しは「何と軽率で不見識な発言か」。厳しい言葉が続き、「(被爆者の気持ちについて)そのことに対する想像力が及ばない政治家は失格だ」、「(イラク戦争に関する過去の発言などに触れ)さらに今回の発言とあっては閣僚としての資質が疑われても仕方あるまい」などと批判している。

   朝日新聞も同2日朝刊の社説で「思慮のなさにあきれる」として久間氏発言を批判したが、罷免・辞職問題については直接的には触れていない。「しょうがない」発言自体については「無神経さには、あいた口がふさがらない」「歴史の忘却、米国の原爆正当化への追随でしかない」と非難している。締めくくりでは「印象や説明の仕方の話ではない。(久間氏の)認識そのものが問題なのである」と述べるに止まっている。

   発言に対しては批判しながらも矛先を米国側へ向けたのは産経新聞の7月2日朝刊のコラム「産経抄」だ。イラク戦争を巡る発言で「日米の同盟関係に波風を立てた」と指摘した上で「まさか、その埋め合わせとして、米国政府のご機嫌を取ったわけではあるまいが」と皮肉を述べている。また久間氏が記者に弁明した内容に触れ「本当に『しょうがない』人ではあるが」とも批判している。しかし、「いわゆる原爆投下容認論者ではないらしい」として、「日本はアジアに謝罪する必要がある。原爆は仕方なかった」という「容認論者」を暗に批判している。その上で、ロンドン大学の歴史学者への取材経験に触れながら「(学者は否定したが)原爆投下の背景には、やはり人種差別思想があったのではないか、と」と疑問を投げかけている。

   また、久間氏の地元では、長崎原爆被災者協議会など5被爆者団体が7月1日、久間氏に対し長崎市である平和祈念式典出席を控えることなどを求める抗議文をファクス送りした。被爆体験を継承しようと活動している「長崎の証言の会」は久間氏と安倍首相あてに議員辞職を求める文書を郵送した。7月2日には、長崎市議会が定例議会で久間氏の発言撤回と再発防止を求める意見書を採択した。7月3日に田上富久市長らが上京し、久間氏らに会う予定だ。

   「問題」を抱えた閣僚をかばうことを巡っては、07年5月末に松岡利勝前農水相が自殺した際に是非が問われた。今回はどこまでかばい続けるのか。

姉妹サイト