長谷川洋三の産業ウォッチ
経営:カルロス・ゴーンの慎重発言

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「重要なことはより迅速に行動することだ(What is critical is faster action)」

   ルノー日産自動車のCEO(最高経営責任者)のカルロス・ゴーン氏は、2007年6月24,25の2日間、シンガポールのシャングリラホテルで開かれた世界経済フォーラム東アジア総会で、何がアジアで最も強いリーダーシップが求められているかをめぐる議論で、「それはなによりもインフラストラクチャーだ」と指摘した上で、こう発言した。

   ゴーン氏は「フィリピンのアロヨ大統領とも話したが、アジアにはすばらしい計画がたくさんある。しかし実行率となるとたかだか5%だ。大事なことは実行だ」と強調した。

   会議の後、さつそく「実行ということでは今の日産には利益体質の回復を実現することが重要だ」と問いただしたところ、ゴーン氏は私の顔を見据えて「結果がすべてだ(Result is all)」と答えた。コミットメント(必達目標)経営で日産の再生を実現したゴーン氏だが、2006年度決算で7年ぶりの減益となったことはさすがこたえているらしく、ことしはじめのデトロイトモーターショーあたりまでは示していた「日産の成長は永遠」といった強気の表情は消えて、慎重さが目立った。それでも「リーダーの条件」をめぐる議論では「タフでななければならない」「顔の皮が厚くなければならない」と発言するなど元気よくふるまい、今後に期待をつなぐゴーン氏だった。

   同総会では世界26ヶ国の経済人、政府関係者など約300人が集まり、アジアが取り組むべき課題」について議論を重ねた。参加者からのアンケートでは、「アジアのリーダーシップがもっとも発輝されるべきテーマ」でもっとも答えが多かったのが「気候変動に対する国際的懸念の表明」で56.1%。「リスクマネージメント」では「エネルギー、環境問題をトップアジェンダにすべき」と答えたのが62.2%、「持続的成長」では「エネルギー安全保障と効率化の改善にとり組むべき」としたのが56.1%、「競争力」では「中国とインドの成長と経済的影響への対応」としたのが67.1%とそれぞれ首位を占めた。

   しかし「気候変動への対応と識字率改善など教育問題のいずれが緊急に取り組む課題か」と司会者が会場の出席者に挙手を求めたところ、「教育問題」が多数派を占め、アジアでは地球温暖化問題より先に取り組むべき課題が多いことを考えさせる総会でもあった。


【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、帝京大学教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「クリーンカー・ウォーズ」(中央公論新社)「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。


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