2007年6月分の給与明細には注意が必要だ。財務省や総務省は「制度改正で所得税は減り住民税は増え、基本的には納税額は変わらない」と強調している。しかし、平均的な層の多くの人の手取りは5月より確実に減る。そこにはカラクリがあった。
年収400万円で約4,000円手取りが減る
「納税額は基本的に変わりません」と赤字で強調する財務省のHP
総務省がホームページで公開している「試算」でも、多くの人の住民税額が5月より増え、手取りが減る。「税源移譲」の項目中に「給料明細に異変!?」という欄がある。「アナタの明細どう変わる? UP or DOWN」をクリックすると、年収別に税金の制度変更に伴う影響を調べることができる。独身か家族持ちか、などの細かい設定はなく「計算はあくまで目安です」「手取りは社会保険料天引き前」としている。
年収500万円の場合。06年11月(定率減税を適用して計算)で手取り28万6,100円(住民税1万2,800円)だったのが、07年5月は29万2,150円(同)、07年6月は28万2,450円(住民税2万2,500円)。06年と比べ3,700円近く手取りが減るのだ。
年収700万円の場合、4,600円手取りが減る。年収400万円では4,200円の減収となる。
軒並み減収となっているのに、同省HPでは「負担は基本的に変わりません」と述べているのはなぜか。ちなみに財務省HPでも同趣旨の内容が強調されている。
こうなる原因は、国税(所得税)を減らし、その分地方税(住民税)を増やすという、国から地方への税源移譲という制度改革と、1999年から続いていた定率減税が廃止されるという2つの変化が、6月から同時に起きることだ。
総務、財務両省が「変わらない」と説明するのは、税源移譲に関する改革についてだ。総務省HPの「給料明細に異変!?」とは別のコーナーで見ると、年収500万円(独身者)の住民税は、単純計算で月々約1万3,600円だったのが、8,100円も増え2万1,700円になる。年収300万円だと5,400円だったのが1万500円とほぼ倍に急増する。しかし、ほぼ同額の所得税が減額となり「負担増額0円」となる訳だ。
「みんな騙されたと感じている」
では、定率減税廃止についてはどうか。総務省HPでは「変わりません」の下に少し小さな字で「ただし、平成19(2007)年からの定率減税廃止等に伴う税負担が生じます」とある。財務省HPでは赤字の「基本的に変わりません」の下に「定率減税の廃止」と小見出しを立てて制度廃止を伝えている。
総務省の広報誌5月号によると、年収500万円(独身)の場合、単純計算で月額を出すと、住民税1,000円増税などと合わせ3,200円の増税となる。年収700万円(同)だと計5,600円の増税だ。
税源移譲の点ではプラスマイナス「0」だったので、定率減税廃止に伴う増税分が丸々負担増だ。なぜ「増税」だと認めないのか。
総務省広報誌5月号では「これは住民税の増税ではないのですか」との質問に答えている。「1月から所得税が減り、6月から個人住民税が増えることになります」「所得税と住民税の合計額は、1年間の合計でみると変わりません」とやはり「変わらない」の説明を繰り広げている。その後、「ただし」と続けて「(略)定率減税の廃止による負担増の影響が生じること から、所得税における1月ごとの減額分と、住民税(略)増額分は一致しませんのでご留意下さい」と回りくどい「解説」をしている。
一方の財務省はHPで定率減税に触れ、「平成11(1999)年に臨時異例の景気対策として導入されたものですが、経済状況の改善を踏まえ、本来の税額に戻すこととしたものです」と、税金負担は増えたのではなく元に戻っただけとの考えを示している。
6月21日発売の週刊文春(6月28日号)は、「給与明細を見て愕然/住民税の引き上げで/税務窓口に苦情殺到」と報じた。「全国の役所の税務課窓口には苦情や問い合わせが殺到」「もはや取材の電話すら通じない」との税理士のコメントを紹介している。そして、経済ジャーナリストの荻原博子さんが「政府は『トータルな税額は変わらない』とPRする一方、定率減税については説明不足。(略)みんな騙されたと感じているんです」とコメントしている。