安倍晋三内閣の支持率が各世論調査で急落している。原因は、社会保険庁の5,000万件の「消えた年金」記録問題。さらに、自民党は1年後には年金記録の照合を完了させる、と不可能とも思われる公約まで掲げた。ところが、「10年はかかる」といわれ、「今後の支持率急落も不可避」との見方まである。安倍内閣は本当の正念場を迎えた。
「今後1年間で、この未確認の年金記録5,000万口すべての名寄せを完了させます」
こう書かれているのは自民党が作成したチラシ。事実上、自民党が「公約」に掲げたこの壮大なる目標だが、実際には不可能ではないかとの指摘が相次いでいる。
「1年以内に照合」が「10年はかかる」
5,000万件の「消えた年金」が1年で照合できる?
就職・転職、結婚による改姓などで基礎年金番号に統合されなかったり、入力ミスによって納付記録が消えたことなどにより、5,000万件の年金が支給漏れだったことが発覚。安倍晋三首相は2007年6月3日の街頭演説で6月中に第三者委員会を発足することを明言したほか、丹羽雄哉・自民党総務会長は「新たなソフトを開発する。総理がお約束したことなので、1年以内に名寄せ(照合)を行う」、片山さつき広報局長は「すぐにシステムを開発して全部通知する」とまで、それぞれ6月3日にテレビ番組で明言した。
しかし、5,000万件の記録を1年間で照合するのは至難の業だ。単純計算でも、1日14万件近い年金記録を照合しなければいけない。それが、自民党のチラシのなかでは、
「オンライン化されていないが、マイクロフィルムや市町村にある記録についても手作業で突合せいたします」
と書いてあるから驚きだ。厚生労働省もJ-CASTニュースに対し、「私どもに具体的な処理(のしかた)が示されていないので何とも申し上げられない」と困惑した様子を見せる。
2007年6月4日付けの産経新聞も、「特定には最終的に手書きの年金台帳などと照合せざるを得ず、これも含めると10年はかかるとみられる」とした上、「とんだ勇み足」とかなり悲観的に書いている。さらには、民主党の菅直人代表代行には、「10年かかって(全部の年金の)4分の1の5,000万件が残っている。これは5,000万件(の照合)が難しいからで、1年以内にできるのか」と6月3日のNHK「日曜討論」で反撃されている。野党にとっては、うってつけの「攻撃材料」になっている。
さらに、6月3日~4日には各紙の世論調査が発表され、安倍内閣の支持率急落の実態が明らかになった。
参院選で「野党勝利」という驚くべき調査結果
共同通信が6月1日~2日に実施した全国電話世論調査では、安倍内閣の支持率は35.8%で、不支持率は48.7%。支持率が10ポイント近く下落し、逆に不支持率が10ポイント近く上昇して、「不支持」が「支持」を抜くかたちになった。
フジテレビ(「報道2001」)が5月31日に行った調査でも、不支持率は54.8%で、支持の33.6%を大きく上回った。日テレが6月1日~3日に行った世論調査でも不支持率は46.4%で、支持は40.0%。朝日新聞が6月2日~3日に行った世論調査でも不支持率が49%で、支持率が30%となった。さらに、年金問題に対する与党の取組についても、半数以上が批判的な回答をしている。
さらに驚くべきことに、日テレの参院選について「議席を伸ばしてもらいたいのは自民を中心とした与党か民主党を中心とした野党か」との調査では、自民を中心とした与党としたのは40.5%、民主党を中心とした野党は41.0%と、野党がわずかにリード。さらに、共同通信の調査でも、参院選の投票先として最も多く挙げられたのは、自民党(26.5%)ではなく、民主党(28.8%)だった。各報道機関とも、「松岡農水相の自殺」とともに「年金問題」を支持率低下の原因と位置づけており、「消えた年金問題」が自民党や安倍内閣に大打撃を与えていることがわかる。さらに、政治問題に詳しいある記者は「(1年以内に5,000万件を名寄せするという)公約が単なる選挙目当てだったということが分かったら、今後さらに支持率が下落するのは必至」との見方を示している。
この支持率「急降下」について安倍首相はどう受け止めているのだろうか。J-CASTニュースは安倍晋三事務所に見解を求めているが、現在のところ回答は寄せられていない。