文部科学省がDVDアニメをつかった新しい教育事業を採択したことに、共産党が噛み付いている。このアニメは、「真の歴史観の確立と愛国心の醸成」を目指す資料として、日本青年会議所が製作した。「靖国神社に行ってみない?」というくだりもあり、共産党は「侵略戦争を正当化する」などと反発しているが、日本青年会議所も「真意は共産党の言ってることと全く逆だ」と反論している。
『誇り』と題されたアニメのDVDが騒動に
日本JCの教育プログラムで扱うアニメが共産党の反発を呼んだ(写真は日本JC「近現代史教育プログラム」の資料)
波紋を呼んでいるのは、日本青年会議所(日本JC)が製作した『誇り』と題されたアニメのDVD。日本JCの教育事業「近現代史教育プログラム」の資料として製作された。文科省はこの教育事業などの研究のために、日本JCに対し約130万円の補助金を支給する予定だ。
気になるアニメのシナリオは次のようなものだ。
――女子高生の「こころ」は、過去からやってきた青年・雄太に出会う。雄太が日本の歴史を知ることの重要性を説き、「大東亜戦争」について説明。そして、「こころ」に「靖国神社に行ってみない?」と誘い、今度は靖国神社で東京裁判について解説する。そこで雄太は、「勝った国が負けた国を一方的に裁く復讐裁判だった」「(GHQが)戦争で残虐行為を働いた凶悪な日本兵というイメージを日本国民に植え付け、洗脳していった」などと語る。つまり、「贖罪意識」が日本人から、自信と誇りを奪っている、と説く。そして、「こころ」がおばあちゃんの家に行き、雄太がおじいちゃん(おばあちゃんの兄)だったことに気づく。そして、大事なことが「正しい事実をきちんと知ること」を学ぶ。
このDVDについて、共産党の石井郁子議員は2007年5月17日の衆院教育再生特別委員会で、安倍晋三首相に「靖国神社の戦争観を子どもに刷り込むための教育プログラム」と指摘した。安倍首相は「それは共産党の視点でのビデオの評価ではないか」とかわしたが、石井議員は、
「共産党の視点といわれるのは心外」
「自衛のための戦争、アジア人開放のための戦争と言っていいのか。村山首相の談話はどうなるのか。村山談話は共産党の視点なのか。教育プログラムとして、このDVDが学校で普及するのは(村山談話を踏襲すると言う)政府の立場として、相容れないのではないのか」
と噛み付いた。安倍首相は「自分の目で確かめていないから、なんとも言えない」としている。
文科相「私が校長であったら使わない」
一方、伊吹文科相は石井議員の質問に対し、
「教材としてお使いになる学校もあるでしょうし、ない学校もあるでしょうが、私が校長であったら使わない」
などと述べている。
さらに共産党の機関紙「赤旗」は、連日このDVDについて取り上げ、「日本の侵略戦争と植民地支配を正当化する」などと報じている。
一方、このDVDを製作した日本JCは共産党の反発を受け、2007年5月25日に公式コメントを発表。DVDアニメは、「近現代史教育プログラム」のごく一部だとした上で、
「確かな歴史認識を学ぼうとする意欲を持たせることを狙いとしています。特定の考えや思想を押し付けるものではありません」
「過去の戦争を肯定するものでも、軍国主義を賛美するものでもありません。真意は全く逆であり、未来の子どもたちを二度と悲惨な戦争に巻き込むことのないよう、世界平和の大切さを訴えるものです」
と共産党の指摘に反論している。J-CASTニュースは、日本JCに『誇り』についての取材を試みたが「これについての取材はお受けできません」と断られた。理由は「公式コメントに書かれている通り」だから、ということらしい。
石井郁子議員は2007年6月1日、J-CASTニュースに対して次のようにコメントを寄せている。
――日本青年会議所が07年5月25日に発表した公式コメントについての見解は?
私の国会質問についての青年会議所の5月25日付けコメントは、戦争に関する事実の問題ですから、DVDアニメ「誇り」を見ていただいた方が判断することです。わたしどもは、この中身は、過去の戦争を正当化するものだと思います。青年会議所はこのDVDを隠さず公表することが先決ではないでしょうか。
――共産党としてこの問題にどのように取り組むつもりなのか?
侵略戦争を正当化することはできません。靖国神社の歴史観、戦争観に公的な承認をあたえるいかなる言動にも強く反対します。