ガソリンより安いことに目をつけた運転手が、セルフ式でこっそりディーゼル車に灯油を入れるケースが目立ってきているようだ。東京都は車に灯油を給油する不正行為が相次いでいるとして、石油連盟や東京都石油商業組合に対して監視を強化するよう緊急要請を行った。背景には、灯油でも車が動いてしまう、ということがあるようなのだが…。
セルフ式が増え、そこで灯油を入れている?
都は有人のガソリンスタンドではなくセルフ式で不正な給油が行われていると予測している
東京都は2007年5月29日、石油連盟と東京都石油商業組合に対し、監視を強化するよう緊急要請を行った。都は、ディーゼルエンジン用の軽油に課される軽油引取税逃れと見て、関係団体に注意喚起を促す要請を行った。
灯油は、通常はストーブなどの家庭用燃料に使われるもので、自動車の燃料として灯油をそのまま給油したり、灯油を軽油に混ぜたりして使用するのは、税金のがれの「違法」とされている。
軽油は軽油引取税が課されるため、灯油に比べれば割高だ。石油情報センターによれば、07年5月28日時点の店頭価格(全国平均)は、レギュラーガソリンで1リットルあたり136.8円、軽油は116.2円、灯油は78円となっている。こうした灯油の「安さ」に目を付けた運送業などの車両が灯油を給油する、というケースが頻発しているようなのだ。
軽油引取税を逃れる行為は当然、税収減につながる。この事態を重く見た東京都は「不正軽油撲滅作戦」を実施。07年5月8日の発表によると、不正な給油行為は06年度で18件確認され、課税額は約5億3,200円で、過去3年間で件数・額ともに最高となった。
その一方で、セルフ式ガソリンスタンドの増加が、不正な給油をこっそり行われやすい状況を生んでいる。都主税局課税部軽油調査課はJ-CASTニュースに対し、
「有人のスタンドの場合は、スタンド側が拒否をするので不正な給油行為は行われないが、ここ2~3年でセルフ式が増えたことで、そこで(灯油を)入れているんじゃないかと予測している」
と話す。ただ、組織的に不正な給油が行われているかは都主税局も現在までに把握できていない。
灯油でもディーゼルエンジンは回る
しかし、そもそも灯油で車は走るのか、という疑問もある。
これに対し、いすゞ自動車広報部は、
「一般論でいえば、燃料タンク周りにあるゴム類の部品や金属を溶かす可能性があり、燃焼温度が高くなってエンジンに負担をかけるのは確実。また排ガスにも悪影響が出る」
としながらも、「ディーゼルは(灯油でもエンジンが)回ってしまう」と指摘する。石油業界関係者も「灯油でも確かにディーゼルエンジンは回っちゃう。ディーゼルは耐久力があるから」と話す。
ディーゼルエンジンを積んでいるのは主にトラックやバスなど。燃料費のコストがかかる運送業を営む人々からすれば、灯油の使用がそのトラックの燃料費を下げるということにつながる。前出の石油業界関係者は、
「この問題は、税金のかけ方が不正給油の温床になっているという皮肉な事例。悪用されない限り、灯油自体は悪くない。行政当局も追っかけるのが難しいんじゃないでしょうか」
と指摘している。