「ナントカ還元水問題」を始めとする一連のスキャンダルについて何の説明もないまま、突然の自殺を遂げた松岡利勝農林水産大臣だが、「自身では謝罪、辞任などの用意があったが、それを止められていて、板挟みになった」との見方が広がっている。松岡大臣を黙らせたのは誰なのか。
「今は黙っていた方がいいとの上からの指示なのです」
鈴木氏の日記では、松岡氏とのやり取りが紹介されている
自殺から一夜明けた2007年5月29日の朝刊各紙は、自殺直前の松岡氏の足跡を詳細に報じている。それらによると、自殺の2日前の5月26日には、突然熊本県の実家に帰省、父母の墓参りをしていた。朝日新聞によると、その後、熊本市の料亭で開かれた地元選出県議の歓送迎会で、荒木詔之・元県議会議長に対して「私も荒木先生のようにスパッと辞められたらなあ」とこぼしたという。辞めたいが辞められないことを示唆した発言とも言えそうだ。なお、荒木氏は、市町村合併で選挙区の区割りが変更になったことをきっかけに、07年の統一地方選には出馬せず、引退している。
松岡氏とは「35年にわたる付き合い」だという鈴木宗男衆院議員は、もっと具体的な経緯を明かしていた。鈴木氏はウェブサイトに掲載している日記「ムネオ日記」で5月28日、5月24日夜に松岡氏と会食したことを明かしている。その席で、鈴木氏が翌日の委員会で質問の席に立つことから、「法律にのっとっている、法律に基づいてきちんとやっていますと説明しても、国民は理解していない。ここは国民に土下座し、説明責任が果たされていませんでしたと率直に謝った方がいい」
と、質問の場を利用して謝罪すべきと進言。それに対して松岡氏は
「鈴木先生、有難いお話ですが今は黙っていた方がいいと国対からの、上からの指示なのです。それに従うしかないんです」
と、謝罪はしないように言われていることを明かしている。鈴木氏はさらに、
「これからも何かにつけこの話は続くので、早く国民に正直に説明した方が良いと思うよ」
と説得するも、大臣は
「そこまで言ってくれるのは鈴木先生だけです」と応じたという。鈴木氏は翌5月29日にも同趣旨のエピソードを記者団に明かしている。
この「国対」または「上」とは、具体的に誰なのか。J-CASTニュースでは鈴木事務所に聞いてみたが、
「国対と言っても、沢山いますからねぇ…」
と話し、具体的に誰の発言なのかは特定できない、という立場だ。確かに、自民党の国会対策委員会は副委員長だけでも10人以上いるが、24日の会談で、国対メンバーの固有名詞が明かされたかは不明だ。
一方、自民党の中川秀直幹事長は29日午前の記者会見で 「国対に確認したが、そういう事実は一切ない」と否定しており、真相はやぶの中だ。
「安倍さんが(辞任を)止めているんです」?
ジャーナリストの上杉隆さんも、鈴木氏と同様の見方だ。J-CASTニュースの「ワイドショーウォッチ」でも既報のとおり、同日朝のフジテレビ系のワイドショー「とくダネ!」で、
「数々の疑惑に闘えなかったということでしょうか」
「実は5月には辞めたいといっていたのを、安倍さんが止めているんです」
などと、本当は辞めたかったが辞めさせてもらえなかった、との見方を示した。
東京スポーツでは、「ナントカ還元水」問題噴出直後から、実は辞意を固めていたのではないか、という見方を紹介、政治ジャーナリストの
「農相を死に追いつめたのは相次いだ疑惑ではなく、安倍首相だったといっても過言ではない」
という、半ば自殺の責任は安倍首相にあるとの批判的なコメントを掲載している。
5月29日現在、松岡氏が書いたとされる8通の遺書のうち、「国民の皆様 後援会の皆様」と題されたものと発見者のために便せんに書かれたとみられるものの内容が明らかになっているが、疑惑について説明する文言は、今のところ見あたらない。