2008年春の新卒採用戦線で、一般職の募集を復活させる企業が相次いでいる。総合商社の丸紅と伊藤忠商事は、9年ぶりに一般職の新卒採用を復活させた。朝日生命保険は10年ぶりの採用となる。中には100倍を超える倍率という例もあり、女子学生を中心に超人気だ。企業が一般職募集を復活させる背景には、景気回復が底流にある。
事務の仕事の核となる人材は正社員が必要
一般職の採用を再開、人気を集めた丸紅の社屋
丸紅広報部によると、20~30人の募集に対し、4月上旬から5月7日までの約1カ月で約5,000人が同社サイトにインターネットを使って応募した。160~250倍にも上る競争率だ。予想以上の人気だった。就職氷河期は脱したとされる中、学生の選択肢が広がったため、どれだけ集まるか未知数だった。準備の進展具合の関係から募集の事前告知をほとんどしなかったこともマイナス要因に働く可能性があったが、心配は無用だった。
一般職の募集復活の理由について同部は、背景は景気回復にあると説明した。また、以前一般職採用を続けていた1999年当時までと今とでは、IT化が進むなど仕事の内容が大きく変わったことも影響している。一般職は補助的な仕事という印象があるが、10年前よりはるかに内容が複雑化している。最近では派遣・契約社員が対応してきた仕事だが、「事務の仕事の核となる人材が正社員として必要だと判断した」。研修だけでは補えない、仕事への意識の高さを身につけた人材を求める流れを景気回復が後押ししたというわけだ。
朝日生命保険の広報ユニットによると、従来の一般職に近い「エリア総合職」を新たに設け、それに100人募集した。転勤を伴わない正社員で10年ぶりの募集となる。数回の説明会などで計600人以上が希望してきた。10年ぶりの募集再開の理由は、女性が働きやすい環境を模索した結果とはいえ、実現したのは上向いた景気のお陰なのは間違いない。
体を壊さず、生活を楽しみながら働けそう?
一般職に応募する女子学生の意識の変化はどうか。東京の共立女子大の就職進路課によると、短大生だけでなく4年制大学の女子学生にも一般職は人気がある。10年以上前は、総合職の方が「働く女」として格好がいい、という印象を持った学生が少なくなかったが、最近ではこだわらない学生が多い。転勤がないし、ノルマや責任もほどほどで、体を壊さず生活を楽しみながら働けそう、という感じだ。一般職の募集人員は、07年春より3割は増えそうだ。それでも人気が高いため、高倍率になりそうだ。
インターネットのあるブログでは、5月20日前後の書き込みで、一般職の試験を受けに行ったら「男子(学生)がいた」とか「意外とお嫁さん志向な子って多いっぽいよ」などといったコメントが寄せられている。
「ハナマルキャリアコンサルタント」の共同代表で、駒沢女子大で「キャリアプランニング」の講師も務める細田咲江さんによると、一般職を巡る意識は学生も企業も変わってきている。数年したら結婚して退社と考える、従来からいる層だけでなく、有名企業に入る入り口として一般職を使い、後の仕事ぶりで総合職に移ることを考える野心ある層まで女子学生も様々だ。企業も派遣・契約社員を使ってきた経験から、派遣社員などではできない仕事を一般職に要求しており、10年以上前の一般職とは求めるものが違ってきている。とは言え、企業が一般職募集に動き始めたのは、学生の意識の変化でも、求められる人材像の変化でもなく「やはり景気回復にある」。