17歳の女子高生と分かっていながらセックスしたとして、愛知県青少年保護育成条例(淫行の禁止)違反の罪に問われていた会社員の男性(32)に対し、名古屋簡裁が無罪判決を言い渡した。現在ではほとんどの自治体で導入されている青少年保護育成条例。青少年保護のために18歳未満との「淫行」を禁じるものだが、今回の裁判では「女子高生とのセックス」が「淫行」なのか「純愛」だったのかが争われた。
2007年5月23日に下された判決によると、男性は副店長を務めていた飲食店で、アルバイトをしていた女子高生(当時17歳)と知り合い、06年4月ごろからデートを重ねるなど交際。同6月以降には、名古屋市内のホテルで計7回にわたり少女とホテルで性的行為をした。男性は当時、妻と子1人と3人で暮らしており、女子高生とは「不倫関係」にあった。女子高校生の母親が、2人の関係を知り、(弁護側によれば「女子高生の意に反して」)女子高生を連れて被害届を出し、男性は逮捕、起訴された。
「淫行」と「純愛」の微妙な境界
裁判では、こうした事実を踏まえ、被告である男性が「単に自己の性的欲望を満たすだけの目的」で性行為に至ったのかが争われた。
山本正名裁判長は判決文のなかで、「不倫」「結婚を前提にしない」というだけでは刑事罰との対象とはならず、「加害者と青少年との関係性、行為の手段方法、状況等の外形的なものを捉え、青少年の保護育成上危険があるか、加害者に法的秩序からみて実質的に不当性、違法性があるか等、これらを時代に応じて『社会通念』を基準にして判断すべき」と述べた上で、一定期間に映画を見に行くなどのデートを重ねたこと、女子高生も男性に対して好意を抱いており、合意や心的交流があったうえでのセックスだったことなどから、「淫行」に相当するというには相当な疑問が残るとして、男性を無罪にするとしている。
しかし、性行為とは「性的欲望を満たす」という部分が必ずついて回る。「淫行」と「純愛」の境界は何なのか。実は、判決のなかでもこれについて、言及されているのである。
判決では、以下のような場合は、たとえ合意があっても青少年保護の観点から社会通念上非難に値する行為、つまり「淫行」としている。
(1)職務上支配関係下で行われる性行為、(2)家出中の青少年を誘った性行為、(3)一面識もないのに性交渉だけを目的に短時間のうちに青少年に会って性行為すること、(4)代償として金品などの利益提供やその約束のもとに行われる性行為
「青少年保護育成条例」自体が合憲なのか?
被告弁護人の上山雅也弁護士は、J-CASTニュースの取材に対し、
「愛し合っていることを『淫行』として処罰するのであれば、恋愛を処罰するに等しい、と主張してきました。通常の恋愛と同じように、ドライブに行ったり、映画に行ったり、食事をしていたのであり、それが認定された。私としてみれば当然の判決です」
と語る。
「青少年保護育成条例」をめぐっては、そもそも条例自体が合憲なのかが争われた判例もある。1982年の最高裁判決では、「淫行」という抽象的な言葉について、
「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」
と規定している。上山弁護士は「最高裁判例を明確化したという点で意義がある」と今回の判決について評価している。そして次のように語る。
「不倫であろうとも、18歳未満でも、恋愛関係にあれば、『淫行』じゃないとされた新しい判断だと思います」