長谷川洋三の産業ウォッチ
環境:トヨタ名誉会長の本音

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

「トヨタは米国の後を追っているだけだよ。米国が月面着陸を果たした後、次は環境だと言い出したときが、つい昨日のように思い出すね」

   トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長は07年5月22日、東京都内のホテルで開かれた日本経済新聞社の日経アジア賞受賞者の祝賀パーティで、トヨタがなぜ環境戦略で世界の自動車業界をリードできるのかを尋ねた私にこう答えた。「米国がマスキー法を成立させるなど、環境政策を強めてくるのに必死に対応するうちに今日になった」という。

   しかしそれだけではない。トヨタは、低公害車開発競争の初期にはCVCCエンジンを開発したホンダに遅れをとった。しかし業績の低迷に直面した90年代に非豊田家の奥田碩氏が社長に就任し、強いリーダーシップでハイブリッドカー「プリウス」の開発を成功してからは、グループ企業を巻き込んだ総力戦と先行投資で後発に隙を見せない強さを発輝した。

   私は近著「クリーンカーウォーズ」(中央公論新社)の中で、その原動力はトヨタのモノ作りを支えた独特の生真面目さを、たえざる危機感をバネに強みに変えた経営力にあると指摘した。
   2007年3月期の連結決算では、本業のもうけを示す営業利益が前期比19%増の2兆2000億円と日本企業として初めて2兆円を超えた。トヨタ一強時代を生んだ背景には豊田家の求心力も欠かせない。

   トヨタ自動車創業者の豊田喜一郎の父親で自動織機の発明者である豊田佐吉は、自動車の動力源としての蓄電池の活用に早くから注目し、その開発を奨励するなど、時代の先取り精神の持ち主だったが、奥田氏は自動車業界のトップ企業として、危機感をバネに、慢心しがちだったトヨタの体質を筋肉質に変え、先取り精神の象徴例として環境車開発に全力を注いだ。
   奥田の後のトップを継いだ張富士夫、渡辺捷昭,は、この時の教訓を「常常時流に先んずべし」との豊田佐吉の遺訓にさかのぼってトヨタのDNAとして社内に定着させ、ダントツのハイブリッドカー開発技術を確立した。

   しかし環境車は多様の時代に入っている。相談役に退いた奥田氏は「ガソリンカーの時代はあと10年は続く」と発言しているが、エンジンとモーターを併用するハイブリッドカーは、ガソリンエンジンを使わない究極の環境車が登場するまでの中継ぎ役であることも確かだ。その機会をねらって、ホンダは燃料電池車などで巻き返しに出ており、ダイムラーはディーゼルエンジン技術の伝統を生かし、GMフォードはプラグインハイブリッドエンジンやエタノール車などの新技術、新燃料を投入して失地回復に力を入れている。

   環境車の開発は、原油の値上がりや公害問題など、外部からの圧力がはずみとなって進歩してきた。今回は地球温暖化への対応という新たな外部圧力が開発競争に拍車をかけているが、自動車各社の開発にかける姿勢が真剣味を増しているのは、このままではトヨタ一強時代が到来しかねないという恐怖心からでもある。ダイムラーは合併したクライスラーの資本を有力ファンドに売却することで合意したが、新技術開発や開発資金の確保を目指した業界再編成の動きは続くはずだ。トヨタ一強時代がいつまで続くか、それを最も心配しているのは豊田名誉会長自身かも知れない。


【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、帝京大学教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「クリーンカー・ウォーズ」(中央公論新社)「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。


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