中日新聞に掲載されたコラムに抗議が相次いでいる。タクシーの全面禁煙に疑問を投げかけるコラムだが、「禁煙運動を始めたのはヒトラー」などの文言が読者に反発を招いたのか、全国から60件ほどの抗議が寄せられ、日本禁煙学会からも抗議文が寄せられた。しかしその一方で、意外なことにこのコラムを肯定的に捉える「激励」のメッセージも寄せられ始めたというのだ。
タクシーは私的空間?
波紋を呼んでいるのは、2007年4月29日に中日新聞に掲載された「タクシー禁煙の憂うつ」と題されたコラム。同社常務・編集担当の小出宣昭氏が執筆した。愛煙家である小出氏が名古屋地区で始まったタクシーの全面禁煙について疑問を投げかけるもので、喫煙者を少数民族「スー族(吸う族)」と禁煙者を多数民族「スワン族(吸わぬ族)」と呼びながら、
「いやはや。少数民族は多数民族の決定に従う術はないが、その決め方にはいささかの薄っぺらさを感じるがゆえに、スー族としての反論を書きとどめる」
として、全面禁煙に疑問を投げかける。
小出氏は、コラムの中で
「タクシーは公共交通機関といっても、あくまで個別選択的な乗り物である。車内でのたばこは運転手さんや同乗者の同意を得れば不特定多数の人々に迷惑をかけることはありえない。まさに私的空間なのだ」
と主張。「全面禁煙という一律主義に、スー族は本能的に危険を感じる」などとしている。さらには、米国の学者・ロバート・N. プロクターの『健康帝国ナチス』を持ち出して、「世界で初めて国家的禁煙運動を始めたのは、ヒトラーである」として、同時代の独裁者ムッソリーニが禁煙主義で、ルーズベルト、チャーチル、マッカーサーは喫煙者だったと述べている。最後に小出氏は、
「禁煙は下手をするとナチスのように他者の存在を認めない原理主義に陥ってしまう。スー族はいま、それ憂いているのだ」
とコラムを締めくくっている。
「筆を折るな」「よく言った」というメッセージが増える
中日新聞社によると、5月9日までに約40通ほどの抗議などの問い合わせが寄せられたという。また、「ナチスといった言葉に不快感を感じた方が多かったようだ」としており、禁煙と「独裁者」を関連付けたことについて、反発を覚えた人も多いようだ。
07年5月10日付の読売新聞によれば、小出氏はこうした批判を受けて、
「禁煙者と喫煙者の共存のために多様な選択肢が必要だということを書いたつもりだが、配慮を欠いた部分もあった。文章を訂正する必要はないと考えているが、今後、反省すべき点は反省したい」
と述べているという。J-CASTニュースは同社に小出氏の見解を改めて聞こうとしたが、担当者からは「読売の記事にある通りだと申しておりました」という返答が寄せられた。
ちなみに、読売新聞が中日新聞社に抗議が相次いでいると報じたことから、5月10日一日だけで全国から電話やメールで36件の問い合わせが寄せられた。しかし、今度は「批判が圧倒的だった」状況がちょっと変わってきているようだ。同社は、36件中「抗議」は20件で、残る16件は「筆を折るな」「よく言った」というような「激励」のメッセージだったと言っている。「少数民族」といわれる「スー族」の支持者もなかにはいるようなのだ。