メンテナンス要員はほとんど増えていない
エレベーターのワイヤが赤さびに覆われるというのは、そんなに異常事態なのか。火災を調査した日本建築設備・昇降機センターは「ワイヤの磨耗した粉のさびやほこりが固まり、本来見えるべき縄目が見えないほどだった」と説明する。日本オーチスによると、「摩擦ででる粉がさびて赤く見えた部分があったが、ワイヤ自体がさびたとは考えていない」。関西のあるメンテナンス業者に話を聞くと「赤さびが表面に目立つなんてそんな事態ありえないですね、普通」と答えた後、「でも、どこかの業者がずさんな管理をしているのではないかと心配はしていました」と続けた。なぜ「ありえない」のか。
ワイヤは芯の麻の部分に油をしみ込ませ、周囲に鉄線をより合わせる。中から油がしみ出てさびないような構造になっている。空気の流れや温度などにより油が乾燥することもあり、月に1回以上の保守点検で、油を表面から塗る場合もある。東京の業者は「メンテナンスの基本はそうじに始まりそうじに終わる」と話す。破断の発見の遅れを招くことなどに直結するからだ。
では「心配していた」とはどういうことか。業者の中には、温度などのデータを機械で「遠隔監視点検」し、「月ごとの点検をしたことにする社もある」という。人の目による点検を毎月ではなく、数ヶ月に1回にしているという訳だ。東京を中心に新しい大型ビルが増え、エレベーターも増えているが、メンテナンス要員は「ほとんど増えていない」。「時間がない」とこぼす同業者の声を耳にし、「大丈夫なのか」と思っていたという。日本オーチスは、J-CASTの取材に対し、「森ビルには駐在事務所もあり、目視点検をしている」と答えた。
日本オーチスは26日の会見でも、3月の定期検査では目視での点検をしていたと明言している。シンドラー社製エレベーターによる死亡事故が起きたのは2006年6月。再びエレベーターの安全性が問われる事態となった。