全国の小学6年生と中学3年生を対象とした「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)が2007年4月24日行われた。国公立の学校ではほとんどが参加したが、中には「憲法や個人情報保護法に違反する」として調査の中止を求めて裁判所に仮処分申請をした生徒もいた。家にある本の冊数を尋ねる質問項目があり、これはプライバシーに関わり、憲法違反になる、といった理屈からだ。
「テレビを見る時間は?」の質問もNG
文科省は「個人情報は厳重に取り扱う」としている
問題提起をしたのは、京都市と京都府京田辺市在住の小中学生9人。07年4月16日、両市に自分たちへの調査を中止するように求める仮処分を京都地裁に申し立てたのだ。調査に疑問を抱いた保護者が知人を誘い、この9人が申立人になったのだという。
両市の調査では、回答用紙に氏名を記入する必要はないが、学校名、組、出席番号などを記入するようになっている。また、調査問題の発送・回収、採点・集計などは、ベネッセコーポレーション(小学校)とNTTデータ(中学校)が担当する。この2点が問題視された。
申し立てでは、出席番号で個人が特定できることを指摘した上で、
「膨大な個人情報が受験産業に流されたり、国に集積されるのは個人情報保護法と憲法13条(個人の尊重)に反する」
だと主張。さらに、「生活習慣や学習環境等に関する調査」として「1日にテレビはどのくらい見るか」「家に何冊本があるか」という質問項目があることは「プライバシーに関わること」だとして、
「テストの結果は望ましい家庭教育像として提示され、国家が教育内容、家庭教育への支配介入する結果になる。教育基本法と憲法26条(教育を受ける権利)にも違反する」
とも訴えている。
8人のうち7人は登校し、受験した
現在でも、申し立てに対する裁判所の判断は出ていないままだが、この9人は、どのようにして調査実施日を迎えたのだろうか。
申し立てを行った9人のうち8人が京都市在住だが、京都市教育委員会の学校指導課によると、試験はつつがなく行われたといい、このように話す。
「8人のうち7人は登校し、受験したと聞いています。有り難く思っています。また、従来から申し上げているように、個人情報の管理に万全を期す、というのは当然です」
一方で、欠席した小学生1人の保護者は、朝日新聞に対して
「行くと受けさせられるので、親権者として登校させない。不当に欠席扱いされるのは不愉快で、引き裂かれる思いだ」
と話したという。
残り1人が住む京田辺市の教育委員会でも、
「個別の事柄についてはお話しできませんが、試験を実施した各校からは『何らかのトラブルがあった』という報告は受けていません」
と話しており、やはり「問題なし」との見方だ。大騒ぎした割には結局何もなかった、というのが真相のようだ。
同調査は、学力の低下が指摘されるなか、全国の生徒の学習到達度などを把握し、今後の指導に役立てる狙いで実施された。調査内容は、国語、算数・数学の2教科と、9人が特に問題視している生活習慣や学習環境に関するものだ。私立学校の参加は約6割にとどまったものの、国公立の学校では、「すでに子どもの学力は把握している」と主張する愛知県犬山市の14校を除く全校が参加した。調査の結果は、9月をめどに公表されるという。