学力低下の元凶と言われ、見直しが叫ばれている「ゆとり教育」だが、文科省が2007年4月13日に公表した高校3年生の実力テスト結果によると、意外な結果が出たのだという。成績がアップし、勉強意欲も向上、「ゆとり教育批判の根拠が無くなった」と報じるマスコミもいる。本当なのか。
「一概に判断しにくい」という文科省の不思議な返答
ヤフーのアンケートでは、9割弱が「ゆとり教育は『悪い』」と回答
文科省が発表したのは、2005年に実施した高校3年生対象の「教育課程実施状況調査」(学力テスト)。「ゆとり教育」で学んだ高校生初のテストで、前回調査(02-03年)と181問が同一。試験結果は、145問では差が出なかったが、残りの26問では前回を上回り、残る10問は下回った。さらに、「学習に対する考え」では、勉強を「好きだと思う」「どちらかといえばそう思う」が計22.1%で、02年から2.1ポイントアップ。勉強が「大切だと思う」「どちらかといえばそう思う」も計84.2%で、同5.2ポイントアップした。だから「学力も勉強意欲も向上したことがわかった」というのだという。
この結果を受け、メディアではこんな論調が出てきた。宮崎日日新聞は07年4月17日の 社説で、「ゆとり教育批判覆すデータ」とし、
「根拠も示されないまま『ゆとり教育』見直しが独り歩きしているのだ。検証もないまま、政治がある種の思惑で現場をかき回すようなことがあってはならない。今回の調査を、冷静な教育論議に引き戻す契機にしたい」
時事通信も07年4月13日にこう配信した。
「小中学校に続き、高校でも一定の成績向上が見られたことは、学力低下の『元凶』とみなされたゆとり教育をめぐり、拙速とも言える勢いで進められている見直し論議に一石を投じるものだ」
これは本当なのか。J-CASTニュースが文科省に取材すると、なんとも不思議な答えが返ってきた。
「今回の調査では、『ゆとり教育』をしたから学力が上がったとか下がったとか、一概に判断しにくいんですよ」
「ゆとり教育」後の初めてのテストで比較がしにくいことが第一点。加えて、読解力や古典など明らかに学力低下が見られるものもあり、「教科個別の課題が浮き彫りになった」という評価なのだ。
朝日新聞は07年4月16日付けで、現場の高校教師の見解を掲載している。東京都立小平高校の英語教諭は「文法力が身についていない子は、さらに苦手意識が高まり、格差が広がっている」。多摩大付属聖ケ丘高校教諭は「ゆとりの枠にとらわれない『高校側の良識』で、もっている部分がある」
といい、全体の学力が向上したとしても、生徒の格差が広がり、さらに、現場の教諭の努力があったからで、それは「ゆとり教育」のおかげでではない、という論調なのだ。
「授業時間削減すれば学力が付く、は間違い」
「教育改革のゆくえ 格差社会か共生社会か」などの著書がある国際基督教大学の藤田英典教授は、J-CASTニュースの取材に応じ、
「ゆとり教育の見直しは必要だ」
と力説する。
新学習指導要領が導入され、週5日制実施と、「総合的学習の時間」を入れたのが、小中学校の場合は2002年4月。高校はその5年後だ。つまり、今回のテストを受けたのは「ゆとり教育の影響が少ない生徒」。そして、「この10年間、教育現場は大きく変化した。ゆとり教育に危機感を持った先生たちが、より熱心に学習指導するようになっている」
とし、「ゆとり教育」そのものが影響したかどうかは、丹念にデータを分析することが必要なのだと話す。
「授業時間を削減すれば学力が付く、というのは間違い。特に低学力の子供、家庭環境に問題のある子供は置き去りにされ、学力の格差が広がっていくことになりかねない」
藤田教授はあくまでも「改革」が必要と主張している。
「ゆとり教育」に疑問を持っている人は多くいて、06年11月に実施した「ヤフーアンケート」では、「あなたは『ゆとり教育』をどう評価しますか?」の問いに、87%(13,749票)の人が「悪い」と答えている。教育再生会議も授業時間10%増などの改革案を提示している。