選挙運動中の伊藤一長長崎市長(61)が指定暴力団幹部の男に銃撃され、大量出血で死亡した。事件直後から与野党幹部は一斉に「言論を暴力で封殺するのは卑劣だ」といった声明を出したが、安倍首相だけは「真相が究明されることを望む」というそっけないコメント。これでいいのだろうか。
伊藤市長は2007年4月17日19時50分ごろ、遊説先から戻って選挙カーから降り、選挙事務所に歩いていたところを、背後から指定暴力団六代目山口組水心会会長代行の城尾哲彌容疑者(59)に拳銃で2発撃たれ、直後に病院に運ばれた。4時間にわたって緊急手術を行ったが、銃弾は心臓を貫いており、翌18日2時28分、伊藤市長は搬送先の長崎大医学部・歯学部付属病院で死亡した。
与野党の幹部は、一斉に犯行を非難
官房長官がコメントしてるから「犯行非難コメント」遅くていい?
事件発生の一報を受けて、各党の幹部は、一斉に犯行を非難する発言をしたり、談話を発表したりするなどした。
「異なる政治的立場を凶弾により抹殺しようとすることは、あってはならない。われわれは政治信条の自由を断固擁護し、かかる暴力に反対する」(自民党・中川秀直幹事長)
「いかなる場合でも、どんな理由があっても暴力はいけないこと」(公明党・太田昭宏代表)
野党側のコメントも、「言論への暴力に対する非難」という点では一致している。
「政治信条・言論を暴力で封殺するというのは極めて卑劣な行為。特に、選挙運動中の、有権者の皆さんと近づいて民主主義の原点として行動する無防備な時を狙うのは、さらに卑劣」(鳩山由紀夫・民主党幹事長)
「こうした卑劣なテロ行為では、自由と民主主義に対する最も凶暴な攻撃であって、絶対に許されない」(志位和夫・日本共産党委員長)
「選挙中の首長が撃たれるというのは異常な事態。武力で問題解決をしようとする傾向に断固抗議する」(福島瑞穂・社民党党首)
そんな中、違ったコメントをしたのが安倍首相だ。4月17日20時3分に首相秘書官を通じて事件の報告を受け、同50分に
「捜査当局において厳正に捜査が行われ、真相が究明されることを望む」
と述べたが、民主主義に対する挑戦を非難する言葉はなかった。なお、この発言をしたのは、中川幹事長の「政治信条の自由を断固擁護し、かかる暴力に反対」という談話と、ほぼ同じ時期。「発生直後なので状況がわからなかった」という言い訳は通用しない。
18日朝になって初めて犯行非難コメント
これに対して、J-CASTニュースの「テレビウォッチ」でも既報のとおり、
「これは普通の事件のコメント。市長選の真っ只中で、市長が銃撃されたのです。納得できない」
といった疑問の声も上がっている。
首相官邸の報道室では、首相の17日夜の発言について
「記者団の問いかけに対して答えたとされるものが、私たちのところに逆流してきているという形なので、この発言が正確なのかどうか、こちらではわからないんです」
としている。
安倍首相は、小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝を批判した加藤紘一元自民党幹事長の実家が、06年8月15日夕方に右翼団体幹部に放火された事件をめぐっても、8月28日まで犯行を非難するコメントを出さなかった「前科」がある。安倍主張の当時の肩書きは「内閣官房長官」。内閣のスポークスマンとして真っ先にコメントすべき立場にあり、小泉首相のコメントが出るのが遅かったことと合わせて「言論への暴力に対する感度が鈍いではないか」という批判が相次いでいた。今回も、この「鈍感力」が問題なのだ。
なお、安倍首相は伊藤市長の死亡が確認された18日朝になって初めて
「選挙期間中、選挙運動中の凶行は民主主義に対する挑戦であり、断じて許すわけにはいかない」
と、犯行を非難する言葉をようやく口にしている。どうして17日にコメントできなかったのか。官房長官がコメントを出しているからいい、と考えたのかもしれないが。