光学ガラス大手のHOYAとの合併を目指していた中堅カメラメーカー、ペンタックスの経営陣が内紛状態に陥り、2007年4月10日の臨時取締役会で、合併計画を主導した浦野文男社長(64)と森勝雄専務(62)の二人が、「独善的な運営で社内外に混乱を招いた」責任を問われ、同日付けで解職された。後任社長には、取締役会で多数派を形成する合併反対派の一人、綿貫宜司取締役兼上席執行役員(54)が昇格した。同取締役会では、両社が2005年12月に基本合意し、今月上旬の最終合意を目指していた合併の断念を決議し、HOYAに通告した。しかし、HOYAは合併に替わってTOB(株式公開買い付け)による統合をペンタックスに提案している。ペンタックス新経営陣が賛同するかどうかは微妙で、敵対的TOBに発展する可能性がある。
HOYAとの合併計画撤回の理由として、ペンタックスの新経営陣は「社内事情及び株主を含む社外事情を総合判断した結果」と説明している。HOYA主導色の濃い同合併計画については、ペンタックスの取締役8人のうち、綿貫新社長を含む6人が反対した。
経営統合そのものは否定せず
ペンタックスの主力であるカメラ関連事業も振るわない
ただ、ペンタックス新経営陣はHOYAとの経営統合そのものを否定せず、資本・業務提携や事業統合など「広い意味での経営統合については、今後とも検討を進める」ことも、10日に併せて決議した。HOYAとのつながりそのものを断ち切れなかった背景には、ペンタックスが単独でどこまで事業展開できるか、新経営陣も十分なシナリオを持ち合わせていない事情がある。
そもそもHOYAとの合併協議を始めたのは、ペンタックスの財務基盤の弱さが大きな理由だった。過去の利益の蓄積が薄いペンタックスは、ここ数年、借入金依存度が約3割と高水準にあり、成長分野である内視鏡などの医療用機器事業に思うような投資ができず、売上高は伸びているのに利益率を高められずにいる。
同社の主力事業で売上高の約半分を占めるカメラ関連事業も、じり貧に陥っている。06年度はデジタル一眼レフカメラの新製品などが好調で営業黒字になる見込みだが、04、05年度は2年連続で営業赤字に沈んだ。国内の06年のデジタルカメラ全体の台数シェアをみても、カメラ専門メーカーではないソニーに抜かれて8位(民間会社BCN調べ)と振るわない。
浦野文男前社長らが進めた合併計画を巡っては、HOYAによる事実上の「買収」という合併計画の中身に対する拒否反応が内紛となって噴出した形だが、今、HOYAという「つっかえ棒」を失えば、経営の先行きに不安感が高まりかねない状況だ。このため、事業が似通い相乗効果が見込める医療用機器事業などで合弁会社を設立するなど、HOYAとの間で何らかの「広い意味での経営統合」を志向する、あるいは志向しているという「旗」は降ろせない。これが、HOYAへの反発と、「統合の検討継続」という分かりにくい姿勢を示さざるを得ない原因といえる。
HOYAは「それほど時間をかけるつもりはない」
一方、HOYAは、同じ10日に開いた臨時取締役会で「TOBを含めた形で統合に向けた協議を継続する」との方針を確認した。お家騒動があったペンタックスに配慮する形でトーンを弱め、現状ではTOBによる子会社化を強行する意図がないことをにじませた。敵対的TOBにいきなり踏み切るより、ペンタックス新経営陣との間でいったんは資本・業務提携などで妥協点を探った方が得策との判断があるようだ。当面は緩やかな提携から始め、将来的に統合に進める選択肢もある。HOYAはペンタックス側に「広い意味での経営統合」の真意の説明を求めるとともに、できるだけ早くトップ会談などで具体的な協議に入りたい意向だ。
とはいえ、合併を強く推し進めてきたHOYAと、合併断念を決議したペンタックスの間の認識の隔たりは大きい。HOYAは「協議にはそれほど時間をかけるつもりはない」(首脳)と、「時間稼ぎ」には釘を刺しており、ペンタックスの対応いかんで、敵対的TOBに踏み切る可能性も消えていない。