「今の中国経済は,楽観論と悲観論のいずれもが真実だと思います」――
東京証券取引所社長の西室泰三氏は2007年3月25日、東京・六本木の六本木ヒルズで開かれたEU誕生50周年祝賀会で中国株の荒っぽい動きを尋ねた私に、こう答えた。中国株式市場の代表的な指数である上海総合株価指数は2月末に過去最大の下落を記録し、世界同時株安の発端となったが、それから1ケ月もたたないうちに過去最高値の記録を塗り替えるなど不安定な動きを続けていることをコメントした。
上海株急落の際には、中国経済過熱への警戒感が騒がれたが、中国人民銀行(中央銀行)が貸し出し金利の引き上げ幅をわずかばかりの限定的なものに留めると、投資家の間では株価抑制策に対する警戒感が薄れ、企業の好業績を評価する声を反映して高値更新となった。中国の第10期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第5回会議の閉幕後に中国を訪れて中国政府要人と意見をかわした西室社長は、融資総額に対する不良債権比率が減少していうことを中国側が強調したが、それは分母(融資総額)が大きくなってからで、不良債権そのものは減っていないのでは、と指摘したという。
温家宝首相は、全人代で株式市場について「穏当に発展させる」と述べ、株価乱高下を望まない考えを示したが、西室氏は「上海株に対するセンシティブな対応は続くだろう」と慎重だ。西室氏は6月末で東証社長職を斉藤惇・産業再生機構元社長に譲り、会長になるが、終盤になって中国株を発端とする世界同時株安の中で日興コーディアルグループの株式上場維持の意思決定をした。同社をめぐっては「上場廃止」報道があるなど情報が錯綜したが、これについては「必然性のない時期に報道するメディアの姿勢はいただけない」と辛口コメントをした。
【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、帝京大学教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「クリーンカー・ウォーズ」(中央公論新社)「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。