政府が今国会に提出する放送法改正案で、焦点だったNHK受信料の支払い義務化が見送られた。「受信料の義務化と値下げはセットだ」と2007年1月に発言して、NHKに約2割の値下げを迫った菅義偉総務相と、抵抗するNHKとの攻防は3カ月続いた。この戦いは、夏の参院選挙前に値下げを確約させたかった菅総務相と、悲願の受信料義務化を逃したNHKの“相打ち”で終わった。
ただし、NHK内には「義務化見送りで払わなくてよくなった」との誤解が広がるのでは、との不安が残った。
混乱の元は菅総務相の読み違い
受信料義務化問題は、まだまだ尾を引きそうだ
受信料値下げをめぐる攻防で、菅総務相は、「絶対に欲しがるはず」と支払い義務化を打ち出の小づちのように振り回して値下げを迫った。その強硬姿勢に自民党内の一部から疑問の声が出たり、一時は放送法改正案の国会提出の見通しが立たなくなったりの混乱があった。菅総務相の強硬姿勢を支える読みは、NHKの「義務化は欲しいが、値下げを受け入れてまでのものではない」という認識との間に大きなズレがあった。
受信料の義務化問題はそもそも、04年夏に発覚したNHKプロデューサーによる制作費の横領事件を皮切りに、NHKの不祥事が次々と明るみに出て、受信料の不払いが広がったことから持ち上がった。不祥事発覚前は8割だった受信料の収納率が7割に低下した。
これを放置すれば受信料で支える公共放送の仕組みが崩れかねないとみた総務省が、法案に支払い義務化を盛り込む準備を進めた。06年12月には義務化による増収の試算がまとまり、菅総務相は「2割の値下げが可能」と確信を持ったとされる。
だが、NHKは強硬に値下げを拒否した。
「選挙目当てが見え透いている。2割値下げは菅総務相が急に言い出した。次の人になればどうなるかわからない。目先のことで何年も先までの約束はできない」
と、NHKのある幹部は警戒心をあらわにしていたという。
また、「義務化だけでは、値下げできるほど劇的な増収は見込めない」という現実的な判断もNHKにはあった。罰則を追加するわけでもなく、最も困難な転居情報の入手にも手間がかかる現状は何も変わらないからだ。